じきに、クリスマスですね。街中が色鮮やかに煌めく季節です。昨今のクリスマスツリーは光ファイバー、目を引きつけるゴージャスなオーナメントで、私達を楽しませてくれています。ここでクリスマスにまつわる、筆者が幼少期だった頃のお話をいたしましょう。私は浄土真宗のお寺の長女として生まれました。
「なむあみだぶつ」
本堂のご本尊(阿弥陀仏)の前に座り、だいだい色の小さなお念珠をもって手を合わせ、毎朝お念仏を唱えていました。子供の頃の私は、大人達におもちゃを買って欲しいと、おねだりしたことはありません。ただ一つだけ欲しいなと、心が奪われそうになったものがありました。それはクリスマスツリーです。
今では国民的行事ともいえるクリスマス、自分が幼少期だった50年前は、そうとも言えませんでした。
「うちは仏教寺院です。キリスト教の習わしは、関係ありません。」
祖母や母からピシャリとそう言われ、寺の娘がクリスマスツリーを買って欲しいだなんて、おねだりすることは出来ませんでした。そこで私は新聞に付いてくるチラシで、裏面が白紙のものを集めました。チラシの表側をセロテープでつなぎ合わせて、一枚の巨大な紙に仕上げました。真っ白な裏側の面に緑色のクレヨンで、大きなもみの木を描きました。そして赤い長靴や黄色のベル、ロウソクなどのオーナメントをカラフルに描き上げました。最後に金色の折り紙を星の形に切り抜いて、もみの木のトップに貼付けました。自製のクリスマスツリーの完成です。小学低学年の女の子が脚立によじ登り(命がけ!)、弟に手伝ってもらい、大人の身長を超える巨大な紙をお寺の白壁に貼りました。
幸いにも、自分はおとがめを受けることなく、仏教寺院の壁に貼られたクリスマスツリーは外されることもなく、お坊さん達はノーコメント。お寺の娘はクリスマスイブに、枕元に毛糸の靴下を置いて寝ました。サンタさんは、お寺にも来てくれますようにと。クリスマスの朝、靴下の中にはプレゼントが入っていました。羊羹に栗まんじゅう(仏事用の和菓子?)。驚いたのは、その翌年の冬のことです。うちの仏教寺院に、クリスマスツリーがやってきたのです。住職である祖父が、買ってきてくれたのでした。子供達に夢を与えてくれるもの、美しいものは、宗教の垣根を超えるのですね。(笑)宗教の垣根を超えるといえば、医療もそう。うちの寺に駆けつけてくれるホームドクターは、敬虔なクリスチャンのK先生(第14話)。お坊さん達は、ののさま(仏さま)を拝むかのように、K先生を拝んでいました。
じきにクリスマスです。1年で最も華やかな季節ですよね。仏教では「もし」という言葉は使いませんが、もし、コロナさえなければ、世界中の人々がクリスマスで大いに盛り上がっていることでしょう。最後に、私がここで申し上げたかったことは、垣根を超えるといえばボールルームダンス(社交ダンス)もそうであると確信しております。ボールルームダンスは万国共通です。人種、宗教、文化、年齢を問わず、言葉は通じなくても、世界中の初対面の男女を笑顔にしてくれるマジカルなスポーツであり、かつ芸術作品。新型コロナが早く収束して、ダンスパーティーが再開されますことを!(笑)
著者名 眼科 池田成子