『さらなる高みへ』
これは、2020年1月末に東京国際フォーラムで開催された日本眼科手術学会学術総会のキャッチフレーズです。ちなみに昨年度の開催地は横浜。キャッチフレーズは『未来への挑戦』でした。ステキですね。前教授は、「学会はお祭りです」と言っておられましたが、特別講演や海外の高名な先生をお招きしての招待講演、シンポジウムに一般講演、ポスターによる学術展示、そして各社企業展示会など盛り沢山。国内外の医学書の出店や、ドリンク・銘菓サービスあり。なるほど、お医者さんにとって『学会』はある意味で『お祭り』なんですね。(笑)私は1月に開催される手術学会、4月に開催される日本眼科学会総会、そして秋に開催される臨床眼科学会を楽しみに、毎年参加しております。(これぞ日本の三大眼科祭り?)
ここで、一口に学会と言っても、参加なさる先生は大きく分けて5つのカテゴリーに分類されるでしょうか。1)総会長をはじめオーガナイザーとしての役付きの先生。2)各々の専門分野でご講演なさる先生。3)熱心に聴講なさる先生。4)ちょっと聴いて帰ってしまう先生。5)学会とは名ばかりで、単位取得目的の先生。学会も、シニア・グランドシニア競技ダンスと同じです。つまり、ポイント制。眼科専門医という『ステイタス』を維持するためには、5年間で最低100ポイントの単位が必要です。会場では座長や演者でない限り、時間に制約はありません。遅刻しても叱られないし、お帰りの時間も自由です。ちなみに本年度の手術学会は、自分は小一時間ばかり抜け出して銀ぶら(木村屋のあんぱんをゲット)、その後に戻って最終のセッションまでガッチリ聴講してまいりました。(笑)
そうそう、学会といえば、うちの大学のH教授のブラック・ユーモアはステキです。(第97話)
「学会の時ぐらい、朝はゆっくり寝ているものだ。」
なんとそのH教授ご自身が、本年度の手術学会初日の開会式直後、しかも朝一で開催される総会長企画教育セミナーのオーガナイザーを務められることになったのです。(誰よりも朝早くに出動しなきゃいけない!)そこで自分は目覚まし時計を5時半にセット。H教授の応援です。学会のメイン会場の最前列、しかも壇上にいらっしゃるH教授の真ん前の席を陣取り、北の将軍さまのような拍手をしていました。その有様はかつて、TVの白黒画像で放映されていた江青(こうせい)がとっていたアクションのよう? ところで若い世代の皆さま、江青という歴史上の人物をご存知ですか? 毛沢東主席の4人目の奥さまです。
さて、眼科手術の世界は日進月歩です。この30年間に白内障、角膜、緑内障、網膜硝子体など、あらゆる眼科手術の領域で小切開化(小さな傷口から手術を行う)が進行し、手術成績の劇的な改善がもたらされました。切開といえば、自分が研修医だった頃の白内障手術は、顕微鏡をのぞきながら黒目と白目の境目(強角膜といいます)をメスでぐるりと半周近く(約11ミリ)切開して、糸で縫合していた時代でした。当時は超音波装置による白内障手術への移行期でもありましたね。じきに切開幅は小さくなり、眼内レンズの径が入るサイズの6ミリへ。折りたたみ式眼内レンズの開発に伴い、切開幅は3.5ミリとさらに小さくなり、無縫合手術の時代へ突入しました。そして現代の白内障手術はインジェクターが用いられ、切開幅はわずか3ミリ弱の目にやさしい極小切開手術です。
そろそろ本題へとまいりましょう。本年度の手術学会に参加して、自分が読者の皆さまに一番申し上げたいこととは、眼科手術の目覚ましい進歩ではありません(ゴメンナサイ)。学会の分厚い講演抄録集の1ページを飾る、某製薬会社の宣伝に、ひときわ眼が惹かれたことです。文面は下記のとおりです。キャッチフレーズは、『より良い明日へ』。
より良い明日へ
患者さんとそのご家族の「満たされない願い」に応えるため、
革新的な新薬をいち早くお届けすることが私たちの使命です。
医薬品の開発を通じて人々の
クオリティ・オブ・ライフの向上に貢献してゆきます。
ステキな文章ですね。でも、私が皆さまにお伝えしたいのは、この美文でもありません。(ゴメンナサイ)自分がお伝えしたいのは、その広告のページの背景に用いられていたカラー写真にあります。自宅と思われるお部屋のリビングでしょうか。そこには互いに見つめ合い、笑顔でホールドを組んでいる外国人老夫婦の姿があります。ブルースを踊っているのでしょうか。リビング奥のテーブルには、ワインボトルがぼかし効果で映っているのも心憎い演出です。これぞ老後の、幸せの象徴? 年をとっても健康でいられる、より良い明日のイメージに『社交ダンス』が抜擢されたのです。嬉しい限りですね。人生100年時代、さらなる高みへ。より良い明日を目指して、今を生きましょう!(笑)
☆H教授先生、おつかれさまでした!
著者名 眼科 池田成子