社交ダンス物語 269 リーダーとパートナーの会話 25

コラム

真冬の病院の講堂には、春の大会に向けてダンスの練習に挑む(励むではありません。挑むです)、病持ち50代独身男女の姿あり。
「イッテェー ケツ痛い!」
「あぁー 眠いっ!」
リーダーはお尻を押さえてヨタヨタ。パートナーはゆるゆる、時に大あくび。二人は組んで、ルンバのベーシックステップを踏み始めました。本来ルンバとは、女子はひたすらウォークを継続し、男子のリードで方向や足型が決まるもの。

パートナー:「女子、左足ファン・ポジションで後退。そのあとさらに後退しようとして、ニュートラルのポジションで右足が止められ、そのまま右足へ体重移動。そのリードが伝わらないわ。」
リーダー:「そんな難しいリード、パーティーで出来る人はいないよ。リードが伝わらなくても、ファンに開いたら次の足型はツイストだ。万国共通、それが社交ダンスというものだよ。」
パートナー:「……。女子、後退ウォークもありよ。」

 ここで、女の本音を言わせてもらいます。社交ダンスのパーティーで、ラテンの曲が流れると逃げたくなります。何の足型がくるか、コワいのではありません。リードが乏しくても、色覚異常の人が信号を間違えないのと同じ、その状況下で女子は次の足型をほぼ予測しています。筆者が逃げたくなる最大の理由は、上級者が集うダンスホールのパーティーにおいてさえも、ラテンで音を正確にとれる男の人が少ないからです。(生意気言って、ゴメンナサイ。失礼ですが、これホントです。)仕掛ける側の男の人にとって、女子に先に動かれることは涙モノであるように、受ける側の女の人にとって、音を外されたまま(裏カウントで)1曲踊らされるほどキモいものはありませんので。

リーダー:「成子さん、ファンからホッキー・スティックに抜ける所はまるで、てるてる坊主だ。フワフワ浮いている。足が機能していない。手は上! 足元が幼稚な分は、手でごまかすしかない。」
そこでパートナーは言われるとおり、フリーアームを意識して腕を高々と上げました。
リーダー:「まるで、交通整理のオバさんだ!」
パートナー:「あなたこそエンド・カウントがとれていないわ。音に甘すぎよ!ミラーばかり見て、女子の顔を見ていないからだわ。」
ルンバは男と女の愛のかけひきを表現する踊りです。なのにリーダーはパートナーをよそに、鏡に映った自分の姿に酔いしれて踊っています。(ラテンダンサーの男の人って、みんなそうなの?)

リーダー:「ああ、緩急のない眠い踊りだ。勝つためには『社交ダンス』から抜け出さねばならん。」
パートナー:「社交ダンス? さっきまで、『それが社交ダンスというものだ』と力説していたのは誰っ!!」


☆ちなみに、ボールルームダンス(社交ダンス)には3通りあるそうです。『楽しいダンス』、『美しいダンス』、そして自分たちが右往左往している『勝つためのダンス』。

著者名 眼科 池田成子