社交ダンス物語 267 当たり前は素晴らしい!

コラム

 新年明けまして、おめでとうございます。皆さま年末・年始は、いかがお過ごしでしたか? 年越しソバを食べる、紅白歌合戦を見る、除夜の鐘を鳴らす(または聴く)、初詣に行く、家族でお雑煮を食べる、友人とお酒を飲む、TVを見ながらまったり、初売りでエキサイト…。そう、ちまたではそれが平和で『当たり前』ともいえるお正月の過ごし方ですよね。アラフィフ・独身の自分の場合、年末・年始といえば、かつては当然のごとく糸病の当直当番(第168話)という重大な任務に割り振られていました。(笑)

 さて、『当たり前』といえば、自分たちチビ・ハゲにとって『ダンス』は当たり前。2020年度に開催予定の全日本シニア選手権大会に向けて、ラテンのドレスを新調するため、昨年11月に行き付けのドレス屋さん(第212話)へ行った時のことです。久しぶりにお会いしたオーナーさんは、とても驚いている様子。
「池田さん、顔が違う! 病気に違いないわ。」
確かに、自分はここ数ヶ月前から、顔のむくみが気になっていました。とくに目のまわりと下あご。(太った? それとも酒の飲み過ぎ?)しかも口の周りの皮膚には白い粉がふいています。(老人性?)毎日顔を会わせているリーダーや眼科スタッフに聞くと、変わらないと言ってくれています。でも、久しぶりに会う知人や友人からは、明らかに顔貌は変わった、風邪をひいているの?(声が違う)と驚かれるのです。オーナーさんいわく、絶対に病院で診てもらった方が良いと。

 そう言われれば、朝から眠いし、疲れやすい。しかも、目と口が開けにくい。(眼科医、自分の目を開けるのが、しんどい)食べる時も疲れます。(口が充分に開かない)なんだか手足に力が入らない。細い足はますます細くなり、下腹ばかり出てきます。そこで、うちの病院で検査を受けました。すると、甲状腺ホルモン(やる気ホルモン)が正常の10分の1しかないと診断されました。甲状腺ホルモンは、全身の細胞の活動性を高めるホルモンです。これが低下すると、正常とは真逆の状態になってしまいます。最初はまぶたや顔が腫れ、声がかすれて、皮膚はカサカサになります。さらに病気が進行すると、無気力、忘れっぽい、少しの運動で息苦しく感じ、疲れやすくなります。筋力低下、食欲がないのに体重増加、脱毛といった症状も出ます。

 この病気を患ったことのある方なら、うなずいてくださいますよね。軽症のうちは病気には全く気付かないのですが、重症になると今まで関心があったことが無関心になり、当たり前にしていたことが当たり前じゃなくなるんです。仕事を終えて、田舎人にとって唯一の楽しみであったスーパーへのお買い物(第187話)に、重い足をひきずり行った時のことです。
「先生!」
女性の店員さんが駆け寄ってきて、ズボン(ダンスの練習で使っている黒いスパッツ)のお尻からトイレットペーパーが垂れ下がっていると指摘、さっと回収して下さいました。この病気は、ペーパーホルダーから紙を引き出し、使用済みのものを便器の中へ落として、便座から立ち上がり、パンツとズボンを上へ引きあげるという一連の動作が、ままならなくなります。かつて眼科を受診された、90代の女性患者さまを思い出します。おひとりで来院されたのはご立派なのですが、トイレットペーパーをお尻から長くひきずっておられました。
「歳をとったら、自分もああなるの?」
その光景に衝撃を受けましたが、いやはや糸病・眼科の池田、90を過ぎたお婆さんと同じ土俵です。『アラフィフ・独身女』は、まるで『花嫁さん』。公衆の面前で、腰から純白の紙を垂れ下げて、ソロソロ歩いているのですから。(コワすぎ?)

 またこの病気は、寒さにも弱くなるんです。今まで通り、暖房のない病院の講堂で、ダンスの練習をする力もなくなります。動きもノロい。たとえるなら『真冬のゴキブリ状態』の自分です。
「I先生が主治医ですから、大丈夫です。」
ダンスはしばらくお休み。院長先生から励ましをいただき、只今うちの病院で治療を受けております。かつては耳が聞こえなくなる病気になり(第192話)、この度また患者さまの立場を体験し、当たり前だったことが出来るありがたさを改めて実感しております。
『冬来たりなば春遠からじ』
2020年を迎え、愛する糸魚川の患者さまの健康をお守りするため、そしてご恩返しするため、業務にまい進する所存でございます。もちろん病気が良くなったら、ダンスも頑張ります。読者の皆さま、糸魚川総合病院を、本年度もよろしくお願い申し上げます!(笑)


☆客のお尻から出てきたトイレットペーパーを、素手で回収してくださった地元のスーパーの店員さん、そのナイチンゲール精神に深謝。

著者名 眼科 池田成子