ダンス遠征で高速道路や国道を走っていると、看板や道路標識の色使いに、それとなく眼を向けている自分がいます。道路標識には、青に白、赤に白、黄に黒、黄に赤の2色が使われていることが多いです。踏切では必ずといっていいほど、黄と黒の2色の縞模様が使われています。エスカレーターやJRのホームのステップも、黄と黒で強調されています。実はこれらの色使いには、意味があるのですよ。日本人の場合、男性の約5%(20人に1人)、女性の約0.2%(500人に1人)に、先天色覚異常があると言われています。男性が圧倒的に多いですね。学校では1クラスに2人ぐらい。ちなみに、色覚異常は遺伝によるもの。これは、誰の責任でもありません。背の高い人がいれば低い人もいるように、自分たち『チビ・ハゲ』の遺伝と同じです。
ここで誤解を招かぬよう、眼科医から一言。先天色覚異常は『病気』ではなく『個性』と申し上げましょう。その見え方が、多いか少ないかの違いです。先天色覚異常は白黒の世界ではありません。色覚が『正常』と言われている人とは、異なった色の世界を感じています。ほとんどの色覚異常者については、日常生活は支障ないと言われていますが、時には色の見分けが困難なことがありますし、実際に色を間違えたりすることがあります。見分けにくい色は、赤と緑、オレンジと黄緑、緑と茶、青と紫、赤と黒、ピンクと水色。その他にピンクと白と灰色、緑と灰色と黒も識別が困難なことがあります。お絵描きをしていて、緑の葉や芝生を茶色で書いたり、空をピンクで描いたりする子がいます。大人の場合、野菜の鮮度の見分けがつかない、バーベキューでお肉を焼いていて実は生焼け、葬儀では白のワイシャツを着なければならないのにピンクのワイシャツを選んでしまう可能性も…。
話を道路標識へ戻しましょう。歩行者やドライバーの安全を守るため、危険を知らせる警戒標識の色は、背景色と文字色の識別において色覚異常者が間違えることのない色(コントラストが十分にあるもの)が使われています。トンネル前の『点灯』や『追突注意』がそう。黄色の背景に文字は黒です。『動物注意』は、黄色の背景に動物のシルエット(鹿、サルやタヌキのことも)が黒です。道路側方や中央などに沿って設置されている視線誘導標(矢印板)は背景が黄色に黒い矢印、黄色に赤い矢印が多いです。道路の分岐点や事故多発箇所に設置されているクッションドラム(樽型をした危険を知らせる衝突緩衝材)は、黄色に赤白の市松模様や、黄黒・黄赤のゼブラだったりします。そもそも黄や赤は警告色。有毒な生物や植物が持つ派手な体色ばかりでなく、人間社会にも広く応用されています。小学生の帽子や雨具に黄色が多く、視覚障害者の歩行の安全性を確保する点字ブロックが黄色というもの、うなずけますよね。
話をダンスへ。競技会では女子の場合、ドレスの色が気になります。いくら高価でデザインが美しいドレスを着ていても、他者と比較して目立たなければ意味がありません。上級選手の場合、フロアの色や競技会場の明るさでドレスの色を替えたり、対戦相手とドレスの色がかぶってしまった場合を想定して、色の違うドレスを数着持参なさる方もいらっしゃるようです。ここで眼科医が申し上げたいことは、男性の20人に1人は色覚異常がいるということです。ジャッジの先生の中には、強度の先天色覚異常がいらっしゃるかもしれません。その場合、正常色覚の人たちが『勝負色』とチョイスした色で踊っても、赤・緑・茶・黒のドレス、白・ピンク・灰色・水色のドレスは、みんな『同じ色』と見なされてしまいます。
そこで眼科医から、ワンポイントアドバイス。色覚異常の人にとって色の情報はそれほど重要ではありませんが、『黄』は見やすいといわれます。ちなみに、自分の現在のスタンダードのドレス(ひさや製)は、黄色の蛍光色です。(笑)さらに、他者と比較して視線をひきたいなら、黄に黒といったツートンカラーのドレスもおすすめです。コントラストで差をつけましょう。色覚異常といっても程度は様々ですが、ジャッジの先生が強度の色覚異常であっても、視線はあなたへ誘導されることは間違いないでしょう。
じきにクリスマスです。そして年末年始ですよね。美味しいごちそうや、カラフルで魅力的なスイーツが、店頭に一斉に並びます。自分も含め中高年アマチュア競技選手のパートナーさんへ、『冬デブ』にはくれぐれもご用心。競技会でコントラスト効果をねらい、ビア樽体型になって黄に黒、もしくは黄に赤の縞模様のドレスを着て踊ったら、
「クッションドラムが踊っている!」
ジャッジやお客樣から、そう思われかねませんので。(苦笑)
☆色覚異常の人が信号を間違えないのは、信号の並び、記憶・経験・状況で判断しているからです。
著者名 眼科 池田成子