社交ダンス物語 262 洗濯機から学ぶ ダンス篇

コラム

 『洗濯マニア』という言葉をご存知ですか? 自分の母親がそうでした。大昔(昭和半ば)は、洗濯機といえば二槽式でした。今のお若い方は、二槽式ってイメージできますか? 洗濯槽と脱水槽は別です。すすぎ・洗いは時には目視下、脱水の際には洗濯物を手動で移動させます。効率的なタテ型洗濯機やドラム式洗濯機の時代へ突入しても、洗濯マニアの母は二槽式を好んで使っていました。二槽式の場合、洗濯や脱水の微妙な『さじ加減』ができて、自分流のお洗濯が楽しめるのだとか。汚れの量を見分けて洗ってくれるAIお洗濯機の時代に、敢えてマニュアルとは凄いです。(笑)数は多くないものの、今でも二槽式洗濯機は販売されており、根強いファンから支持され使い続けられているそうですよ。

 そんな自分も平成10年7月に糸魚川へ赴任して、病院が借りてくれたアパートの1階のお部屋に住んでいた時は、二槽式洗濯機を使っていました。アパートが取り壊しになることが決まり、現在のマンションの3階のお部屋に引っ越すことになりましたが、マンションの洗濯機置き場は二槽式を置くスペースはありません。そこで、コンパクトでハイテクなタテ型洗濯機に買い替えました。最初はドキドキしましたね。スタートから終了まで洗濯機の前に立ち、洗濯機の挙動を一部始終見守っておりました。(笑)
「あら、水の出が悪い…。」
給水口からの水の出が、以前の二槽式よりも少ないのです。『竹かけひ』のごとく、チョロチョロと優雅に水が流れています。これは旧式と新型との違い? しかもここは1階ではなく3階です。それはそういうものと、解釈しておりました。

 その10年後に、家主さまから立ち退きを命じられ(第166話)、同じマンションの5階のお部屋に引っ越しました(第174話)。ここではさらに、洗濯機の給水口からの水の出が悪いのです。音もせず、細く糸をひくかのごとく水が流れています。その理由は、さらに上の階へ移ったから? 洗濯・脱水槽への水の溜まりが遅いので、相当の時間を要します。スタートボタンを押して残り時間が28分の表示でも、実際は終了までに2時間以上要します。しかも、途中でエラーの警告音あり。そこで、たらいに水を汲み、洗濯・脱水槽の中へ注ぎ足しました。たらいで20杯くらい水を足したら、洗濯機は作動します。『日本昔ばなし』にありますよね、洗濯機のない時代は、お婆さんは川で洗濯をしていたのです。そのご苦労を想像すると、50過ぎのオバさん(『昔ばなし』なら、自分はお婆さん)が、水道水を汲み入れることは楽チンなこと。
「お婆さんは川へ洗濯に…」
そう口ずさみ、自分に喝を入れて、20杯ずつ洗い・すすぎの度に水道水を反復汲み入れいたしました。

 それからも、洗濯との戦いが続きました。仕事とダンスを終えて帰宅してからも、肉体労働が待っているのです。
「ああ、苦しい…」
田舎のマンションの3階から5階に移り住んで、洗濯でこんな苦労するのだから、都会の超高層マンションの最上階に住む人たちはいかに…。(想像するだに、身震いするっ!)
「成子さん、洗濯機が壊れているんじゃない?」
うちのリーダーから指摘されました。
「そんなことないと思うわ。買って間もないもの…」
念のため電気屋さんにみてもらいました。洗濯機には異常ありませんとのこと。

 聡明な読者の皆さまなら、お気づきですよね。
「眼科の池田はアホだ!」と。
そう、水の出が悪いのは、洗濯機の機種や地上からの高さの問題ではありません。水道の蛇口に取り付けてある節水コマが原因でした。築16年のマンション、モノが劣化して『節水コマ』が『止水コマ』へと化していたのでした。節水コマを新しく替えたとたんに、「ブホッ」と音を立てて、勢い良く水の出ること出ること! まるでダムの放流のごとし。あまりもの水の勢いに、洗濯機をのぞき込んでいた自分はおののき、後ろへのけ反ってしまいました。

 これは『常識』だったのでした。知らなければ、多大な時間と労力を要します。このたび洗濯機から学びました。それは自分たちのダンスにも応用できます。
「なぜ、できないの?」
自分では、やっているつもり。しかし、時間をかけて何千回練習しても、間違った解釈をしていては、ダンス上達いたしません。ボールルームダンスは二人の共同作業です。
「ああ、苦しい…」
シャドウは極楽、組んだら地獄。競技ダンスとはそういうものと解釈して、うちのリーダーはあえぎながら今まで踊ってきたそうです。

 ダンスはナチュラル・ムーブメント。プロの先生が、そうおっしゃっていました。『苦しい』のは『間違い』だそうです。自分たちと同じ、中高年アマチュア競技選手の皆さまへ。ダンスとはそういうものと、力んで踊っていませんか? あなたの解釈は大丈夫?


☆節水コマを取り替えたら、洗濯早すぎ! 夢のような別世界です。(笑)

著者名 眼科 池田成子