社交ダンス物語 255 ダンスでSBAR(エスバー)

コラム

 うちの病院の手術室やナースステーションには、コミュニケーションエラー防止のため、SBAR(エスバー)活用を啓蒙する貼り紙が見られます。ここでSBARとは、「Situation(状況)」「Background(背景)」「Assessment(判断)」「Recommendation(提案)」の頭文字をとったもの。
S:今、何が起きているかを簡潔に伝える。
B:今の出来事に関する情報を伝える。
A:何が問題か、自分の考えや判断したことを伝える。
R:どうしてほしいのか、提案する。
つまりSBARとは、状況を適切に伝えて、確実に相手の行動を引き出す伝達方式です。医療においては、患者さまの容体急変などの緊急時に用いられることが多く、この順に従い説明することで、他者に的確に情報を伝えることができるとされています。医療従事者にとって相手に的確に情報を伝えることは、とても重要なことなのです。

 SBARは、もともとアメリカ海軍が潜水艦での情報伝達手段として使っていたツール。さて、リーダーとパートナーでダンスの練習をしていると、二人の間でトラブルが発生します。
「なぜ、できない?」
「あなたが、悪い!」
ボールルームダンスは、男子と女子の共同作業です。できないのは、相手のせいにしがち。競技会場でも、リーダーさんがパートナーさんを叱りつけたり、その逆でパートナーさんがリーダーさんに怒鳴ったり、二人でワンワン激しく言い合っている現場に遭遇することがあります。SBARは急変時に限らず、通常のコミュニケーションにも使うことができます。そこで自分たちチビ・ハゲは、『ダンス』に『SBAR』を活用してみました。

 まずは、ルンバのクローズド・ヒップ・ツイスト。
「S(状況)」:成子さんを支えきれない。転倒しそうだ。
「B(背景)」:僕は歯を食いしばり、踏ん張って立つのがやっと。ヘソを女子の方に向けているよ。でも、ダメだ。重くて、とても苦しい。柔道選手だった僕が(第176話)、体重40キロ足らずの女子を支えきれない。
「A(判断)」:クローズド・ヒップ・ツイストのツーからスリーで、女子の右足から左足へ体重が移動する時、成子さんは左足を回転させながら床に乗っている。(アンビリーバボー!)
「R(提案)」:腰の角度を変えず、まっすぐ左足前進して床に体重をのせ、フォーでリードに合わせて回転して下さい。

 次に、ルンバのファンからホッキー・スティック、そして二人が向き合うところ。
「S(状況)」:成子さんが、空中遊泳しています。
「B(背景)」:ルンバ・ウォークとは、全く別物の歩き方をしています。
「A(判断)」:決められた足形を踏んでいます。でも、床の上に足を置いているだけ。ヒップの上に、骨盤が乗れていません。
「R(提案)」:ルンバを踊っているので、ルンバ・ウォークを継続して下さい。
そこで今度は足形を決めず、先入観なしで組んでルンバ・ウォークを継続してみました。するとパートナーからリーダーへ、緊迫感ある伝達あり。
「S(状況)」:非常事態発生。ルンバで女子がひたすら前進ウォークをし続けています。(Help!)

 マニアックな内容になってしまいました。自分たちチビ・ハゲの場合、パートナーはルンバの基本動作であるルンバ・ウォークが出来ておらず。(涙) かつリーダーのリードは、伝わりませんというお話でした。(涙……涙)

著者名 眼科 池田成子