夜中の病院の講堂には、お尻を押さえながらダンスの練習をしている、50代独身男の姿あり。傍から見たら、実に奇妙な光景? 痛いのは、最初は腰でした。痛い部分はどんどん下がってきて、今では踊るとお尻が痛いそうです。(これは重症のサイン)今まではコルセットを巻き、試合の直前にロキソニン(鎮痛薬)を飲んでいました。今や普段のダンスの練習の時も、ロキソニンが手放せない状態。チビ・ハゲカップルの選手生命は、そう長くはないのでしょうか?
「勝ちたければ、オトコをかえろ。」
リーダーの主治医で、痛みのスケールを判定してくれたスポーツドクターのY先生(第157話)から、そう宣告されました。
リーダー:「Y先生から、腰の手術の話があったよ。」
パートナー:「手術をしたら、痛みは和らぐみたいね。ダンスは当分、無理らしいけど。」
リーダー:「成子さんにとって、僕はかわいいワンコ(第178話)なんでしょ。要らなくなったという理由で、犬を捨ててはいけないよ。」
ちなみに、競技ダンスの昇級規定は、本年度からさらに厳しくなりました。C級からB級昇級への必要最低条件は、年間を通して決勝進出1回以上、かつ準決勝は2回以上。決勝に進出できるカップルは、上位わずか6組。ドングリの背比べと喩えられるアマチュアスタンダードC級戦では、多い時は200組の選手が出場します。その中で決勝に残れるカップルは、生存率で言えばわずか3%。ちなみに、2019年度の医師国家試験の合格率は、89.0%。90%を下回り、これは大変なことになったと、うちの病院のドクター達はざわついていましたが、自分は驚きません。競技ダンスの生存率は、そんなものじゃありませんので。一定の基準をクリアしていれば合格できる医師国家試験と異なります。美と技を競い合う競技ダンスは、他者との比較。生き残りをかけて、熾烈な戦いが繰り広げられます。ヒートが悪ければ、早々とふるい落とされてしまう残酷な世界であります。
リーダーの都合で、その日の晩はダンスの練習はお休み。ブルーな気分で早くに帰宅しました。競技選手は勝たなければ、意味がありません。瀬戸内寂聴さんは、かつて女性週刊誌でこう説いておられました。
「古い靴を捨てる時は、新しい靴を買ってから捨てるでしょ。」
『ああ、新しい靴…(次のリーダー)』
その時のことです。スマホが秒刻みにピコピコ音を出すので、石器人(第249話)おののき、恐る恐るラインを開きました。すると、リーダーからのメッセージあり。
「決勝に行けるよう頑張ります!」21:22
「頑張ります。」21:23
「進出」21:23
「dance LOVE」21:24
そこには燕尾服を着て、タンゴのピクチャーポーズを決めているロマンスグレーの、可愛いスタンプが入っていました。呆れるやら、笑えるやら、泣けてくるやら…。人生、山あり谷あり落雷あり。苦しい時、辛い時は、ユーモアで乗り越えましょうね。痛いの痛いの、飛んでゆけー(笑)
☆目指せ、生存率3%!
著者名 眼科 池田成子