「先生、私の目にまつ毛ダニはいますか?」
ある若い女性患者さまから、ご質問を受けました。TVでも取り上げられたそうですね。先月、東京で開催された臨床眼科学会のトピックスにありました。最新の研究では、予想されていたよりも多くの割合で、まつ毛ダニが存在することが確認されたそうです。まつ毛ダニ(デモデックス)とは、人の毛穴に棲みつくダニです。体長は0.1-0.2ミリと小さいため、肉眼で見ることはできません。20-50代では5割に、60歳以上では7割の人のまつ毛に寄生しているといわれます。その病的意義はいまだに議論されていますが、目のまわりの炎症やかゆみを引き起こし、眼疾患に関与していると考えられています。
このまつ毛ダニ、健常な人でも2割はいるそうです。そうそう、まつ毛ダニがいるかどうか患者さまから聞かれても、眼科の外来に置いてある顎台に顎を載せて目に光を当てられる器械(細隙灯顕微鏡:さいげきとうけんびきょうと呼びます)では、わかりません。実際にまつ毛を4ー5本抜いて、実験室にあるような顕微鏡でまつ毛の根元を拡大して検査しなければわかりませんので。まつ毛ダニがあなたの目にいるかどうかは不明ですが、少なくとも顔にはいますよ。もともと顔に100%存在するダニですので。みんな持っています。その一部が、まつ毛の毛根に多く棲みついているだけ。ものもらいがよくできる、まつ毛にフケがある、まつ毛が短くなって抜けやすいという方は赤信号です。
ところで皆さま、目元を洗う習慣はありますか? 前号(第239話)では手指消毒の重要性を力説いたしました。アリやゴキブリは、エサに引き寄せられますよね。まつ毛ダニもそうです。まつ毛ダニは酸化した脂が大好き。エサは皮脂や細菌です。目のまわりが不潔であると、より寄生します。学会で発表されたアンケート調査によると、毎日歯磨きする人は98%、洗顔する人は90%と多いのに対し、毎日目元を洗うという人は20%。案外少ないですね。そこで、ものもらいを繰り返すという人や、目の周りの赤みがなかなか治らないという人に、リッドハイジーン(眼瞼清拭:がんけんせいしき)をおすすめします。清拭とは、きれいにふき清めること。つまりリッドハイジーンとは、目元を清潔にするという意味です。目元をマッサージするように洗ってみて下さい。目元を清潔に保ち、まつ毛ダニのエサとなる菌の数を減らすことで、症状は改善します。目元専用のアイシャンプーもネット販売されています。水で洗うだけでも効果あるそうですよ。
ここまでは、眼科医の立場として上から目線で申し上げてきました。そんな筆者ですが、秋の競技会シーズンの終わり頃から、左目の下まぶたのキワがムズムズして、赤く腫れてきました。そのうち治るだろうと高をくくっておりましたが、なかなか治りません。ボールルームダンスの女子の競技選手は、絶滅危惧種と危ぶまれているヤマンバギャルに負けないド迫力なアイメイクで試合に臨みます。目のキワはまつ毛の付け根まで、黒いアイライナーで「これでもか!」というくらい、気合いを入れて分厚く塗りつぶします。試合を終えてアイメイクを落としたつもり、でも汚れが残っていた? まつ毛ダニはメイクしたまま寝ることで、繁殖しやすくなりますので。
「顔なんて洗わないさ!」と、うそぶくオジさん同然、眼科医の目元に非常事態発生。エサが多いと引き寄せられます。デモデックスがウヨウヨしているかもしれません。
☆成子さん、読んでいるだけで顔がかゆくなるよ!:リーダー談
著者名 眼科 池田成子