社交ダンス物語 238 敗者は申す ダンス篇

コラム

 ダンス昇級をかけて決勝を狙った関東甲信越競技ダンス長野県大会において、ラテン・スタンダードともに自分達はまたもや予選落ちという結果でした。群馬県大会においては、まさかの1次予選敗退。茨城県大会は3回負け(3次予選敗退)。ダンス昇級と吹聴しておきながら、こんな成績ではひとさまに合わせる顔はございません。どうしたら人目につかずにすむの? 競技選手たるもの競技会場にて存在を消すことに専念。誰とも目を合わさず、コソコソ逃げるように敗走いたしました。(涙)哀れなチビ・ハゲ組は、ダンスを通して『中高年ひきこもり』になりそうです。投げ出すか、踏ん張れるか。ここでへこたれてはいけません!(笑)

さて、長野県大会の前日は、富山大学眼科臨床カンファレンスがお隣の富山県で開催されました。富山大学医学部(旧富山医科薬科大学)出身で、医局員である自分は参加してまいりました。その日のテーマは、白内障手術について。自分がよく行っている手術ですね。難症例の手術に対する考え方についての講演がありました。講演して下さった先生によると、手術上達に必要なファクターは『知識』と『認識』と『技術』であり、それに『アドヒアランス』も加味されるそうです。アドヒアランスとは「固守」、「執着」という意味の名詞です。手術上達に必要なファクターの中でも、とりわけ『知識』の占める割合は高く、困難な状況を乗り切る思考回路として大切なことは、普段から「なぜ?」と問い続けることだそうです。

 ここで、眼科手術についてのお話をしましょう。研修医は、いきなり人の眼(患者さまの眼)で手術はいたしません。まずは、豚眼(屠殺場から入手した豚の眼)や模擬眼で練習します。豚眼はヒトの眼に似ていて、ヒトの眼よりもひとまわり大きめ。眼科手術の練習に適しています。眼科手術では、角膜や強膜、結膜は直径0.02ミリの糸を用いて縫合します。自分が研修医だった頃を思い出します。手術用手袋にガーゼを詰めて、手袋の表面にメスで切れ目を入れ、顕微鏡をのぞきながら縫合する練習をしました。本番(ヒトの眼の手術)では、絶対にミスは許されません。手術に限らず私たちは、何のために練習するのでしょうか? それは『正しい動きを体に覚え込ませる』、そして『新しいことを試す』ためです。難症例に対するパーフェクトな手術をめざすため、講演ではスポーツ選手が引き合いに出されました。スポーツを体に覚え込ませるためには、1万回の練習が必要だそうです。1万回といえば、1日100回以上の練習でも、約3ヶ月はかかります。

 自分達のダンスは負け続き、スランプに陥っています。毎日それなりに練習をしているつもり。でも、いつも予選落ち。結果は出せません。なぜ? 練習したことがついてこないから、結果が出せないんですね。敗因はコーチャーから教わった正しい動きを、体に覚え込ませていないことにありました。なお、女子のシャドウの重要性をコーチャーは説いています。ボールルームダンスでは、ステップと方向を決めるのは、男子の役割です。女子がシャドウをするということは、踊らせてもらっているのではなく、フォローする立場として「なぜ?」と疑問意識を持つことになります。1万回とまでは言われませんが、同じステップを反復練習し、自分のものにしなさいとレッスンでは言われます。組んで踊るのは、最後の10分でよろしいと。

 先に、手術上達に必要なファクターは知識と認識と技術、そしてアドヒアランスと申し上げました。ダンス上達に必要なファクターも同じでしょう。正しい動きを体に覚え込ませるという点では、手術もダンスも共通していますので。ダンスは理論です。自分達の反省すべき点は、ダンスの知識不足と認識不足にありました。手術においては、どのようにすれば最高の結果を出せるかについて、こだわりを持つべきと考えられています。同じく競技会では、どのようにすれば最高の結果が出せるかを考えるべき。そのためにも普段から「なぜ?」と疑問意識を持つこと、そして習ったことを消化する時間の重要性も再認識いたしました。


☆対戦相手にジュニアがいたら、「子供は強い!」と舌を巻く中高年アマチュア競技選手の皆さまへ。ジュニアが強いのは、なぜ? 若いだけじゃない。ジュニアは練習の後に、晩酌はしませんよね。ウイッ。(苦笑)

著者名 眼科 池田成子