社交ダンス物語 233 ハッタリは効くのか? 新潟県大会

コラム

 猛烈な暑さです。夜中の病院の講堂には、ダンスの練習に勤しむアラフィフ独身男女の姿あり。
『心頭滅却すれば火もまた涼し…』
呪文のごとくに唱えつつ、冷房なしの講堂でダンスの練習に集中しようとします。でも、暑いっ! かき氷、おくれ! あまりの暑さに講堂の窓を全開しました。なおさら暑いっ!! 遠方の牛舎から風にのって、ふわりと芳ばしい香りが漂ってまいりました。救急車のけたたましいサイレンも響いています。ああ、神経を集中させねば…。チビ・ハゲにとってダンス昇級をかけた試合を、明後日に控えています。

リーダー:「ダンスは急に上手くならない。こうなったら、上手くみせるためにハッタリだ!」
パートナー:「ハッタリ?」
リーダー:「そうだ、成子さん。ハッタリは顔と手だ。下手でも堂々と自信ありげな表情で、オバケの手じゃなくピシットだ!」
リーダーはルンバを踊っているうちに、次第に腕が下がってきて指先が死んでしまうパートナーがとても気になる様子。フリーアームは細心の注意が必要です。そこでパートナーは、ぱっと勢いよく腕をあげること135度。
リーダー:「まるで、交通整理のオバさんだ。」
パートナー:「……。」
リーダー:「成子さん、アイ・コンタクト!」
パートナー:「ハッタリとはいえ、私あなたのカノジョじゃないのよ。2秒おきに目と目を合わせて笑えと言われても、無理だわ。」
リーダー:「今そんなことを言っている場合じゃない。これは『ダンス』だ!」

 仰せの通り、ボールルームダンスには『ビジネス・カップル』という言葉があります。試合で勝つためには、好むと好まざるとに関わらず、相手と愛のかけひきを表現しなければなりません。そんなうちのリーダーこそ必死に歯を見せて、泣き笑いしながら踊っているかのように見えます。まるでリーダーの尊敬している全日本チャンピオン、大村淳毅(オオムラアツキ)先生スタイルです。(第178話)

 次はスタンダードの練習です。今回の競技種目は、タンゴとクイックステップ。
リーダー:「姑息的と言われようが、結果が全てだ。」
パートナー:「手術もそうよね。」
リーダー:「ワールドカップと同じだ。奇跡を起こそう。」
かつて糸病の生バンドと共演して、ステージでソロ・ダンスをご披露させていただきましたが(第214話)、本番でうちのリーダーはあらかじめ決めていたステップとは違うことをいたしました。
「うちのリーダーもそう。」
うんうん、わかると、うなずいてくださるパートナーさんもいらっしゃるでしょう。男の人(リーダー)は本番で、どうして練習と違った足型をなさるのでしょうか? そんな時、女(パートナー)は仰天いたしますよ。ステージではリードに合わせるどころか、フットワークはバラバラ。とにかくトップ(腰から上)を作り、笑顔でハッタリで踊りました。後で自分達の踊りを動画で見たら、足がバタバタ。あまりのお粗末さに目を覆いたくなりました。でも、ダンスをなさらない観客の方には、バレなかった様子。(ほっ)

リーダー:「足下がダメでも上体さえ崩さなければ、予選レベルでは(ジャッジに)拾ってもらえる確率はあるよ。」
パートナー:「ホント? ジャッジにハッタリはきくの?」

 そして試合当日。東日本県別対抗戦の同日午前に併催された、関東甲信越ブロックの競技会にて。ジャッジにハッタリは効くのか? 試合結果は…。ラテン、スタンダード共に1次予選敗退。対戦相手が強かったとはいえ、自分達は放心状態。(涙…涙)

 ちなみに会場はアオーレ長岡でした。そういえば、新潟県の選手である自分達、新潟で開催された試合では勝ったためしはありません。(第226話)今回も、1回負けして糸魚川へ敗走です。会場を出ること午前10時すぎ。車の停めてある地下駐車場へ戻ろうとして。あら? 駐車場の出入り口は、どこだったかしら? 会場前の広場にて、スーツケースを転がし中年のチビ・ハゲ男女は右往左往しておりました。すると親切そうな警備員さんが、声をかけて下さいました。
警備員さん:「ダンスですね。会場はこちらです。」
チビ・ハゲ:「@♨;;;○×△☆!!」


★ジャッジにハッタリは効きませんね。めざせダンス昇級! 自分達に強いハッタリをかまして、それに追いつきましょう。そして、笑顔磨きも。(笑)

著者名 眼科 池田成子