社交ダンス物語 232 夢を信じる

コラム

 ケッコンとは何ぞや? フーフとは何ぞや? お恥ずかしながら、アラフィフ独身チビ・ハゲの自分達に、それらを語ることはできません。何事も経験なしでは語れませんので。でも競技ダンスはペアを組んで10年。『ダンス』なら、少しは語ることができます。大胆な実行力? 本年度もチビ・ハゲにとって恒例のイベント、2日間にわたり日本武道館で開催される日本インターナショナルダンス選手権大会に併催、全日本シニア選手権に出場してまいりました。

 ボールルームダンスにおける国内最高峰の競技会を直接取材し、斬新な病院エッセイを提供させていただくためには、自らが選手となり、出場・体験するしかありません。
『虎穴に入らずんば虎子を得ず』
日本武道館といえば自分達にとって、まさに虎の穴! 「ダンス発達障害」、「目を覆いたくなる」、「身の程知らず」と笑われても、挑戦し続けるチビ・ハゲです。
「僕たちが出場したからといって、命をとられることはないだろう。」
うちのリーダーは、そう申しております。
「恥の多い人生を送ってきました」と、太宰治氏。
「恥の多い人生を送っています」と、ダンスを通して現在進行形の筆者であります。

 1日目の6月9日(土)、早朝から競技会が開始されました。トップを切るのはグランドシニア選手権・スタンダードの部です。出場資格はリーダー(男子)が55歳以上。自分達はアリーナ席から観戦いたしました。ここで、競技ではワンセクションを約1分半踊りますが、勝敗は最初の踊りだしで決まると言われます。あるプロの先生によると、試合の一週間前は出だしのルーティンしか練習しないそうです。なるほど、グランドシニア選手権を観戦してうなずけました。音楽が鳴り、十数組の選手達が一斉に踊り出すと同時に、ジャッジのペンが動いています。(目に入る選手から選ばれる?)

 ちなみに、ジャッジは国内・海外の著名な先生方です。自分はアリーナ席から、フロアサイドに立っている11名のジャッジの先生を、そっとジャッジしておりました。(畏れ多くも!)アマチュアの選手権からプロの選手権をかけ持ちして、休憩なく何時間も立ち続けの先生もいらっしゃいます。(トイレにも行けない!)ワンセクションの試合時間はわずか1分半ですが、フルパワーで崩れず隙を見せずに踊ることは至難の業。ましてや長丁場の競技会、さすがのジャッジの先生もお疲れになって、いささか楽な姿勢になるのでは? 背中が丸くなっていないか、休めの姿勢になっていないかを、せんえつながら逐次チェックさせていただきました。ジャッジの先生方、フロアで踊っている選手以上に見られているを意識していらっしゃる? どの先生も隙がなく、最後まで崩れません。とりわけエスパン先生、巨大な体で長時間立っていながら、その立ち姿は凛々しく最後まで美しい!パーフェクトです。さすが、元・世界ラテンチャンピオン。

 いよいよ自分達の出番がきました。全日本シニア選手権、これは男女ともに出場資格が35歳以上の部です。1日目はラテンアメリカン部門、本年度の出場組数は38組です。昨年度はルンバで音を外してフリーズし、自分は大舞台で赤恥をさらしました。(第205話)日本武道館の大ホールは天井が高く音が反響して聞き取りにくいこと、そして関東甲信越ブロックの競技会とは異なり、フロア中央へ向かって入場している途中に音楽がかかることがあります。踊りだしの場所も重要ですね。本年度の競技種目は、チャチャチャとルンバとサンバ。当日は雨が降っていて湿度が高く、革製のダンスシューズの裏がフロアにひっかかります。でも、悪条件はみな同じ。競技結果は… 自分達は38組中38位(最下位)。しかも、ゼロチェック! 新潟からやってきたチビ・ハゲ組、またもや全日本に赤恥をさらしてしまいました。(涙)
「成子さん、高いレベルに自分を置いているんだ。」
負けてもうちのリーダーは、清々しい表情です。ダンスはあきまへんが、柔道家であるリーダー君(第176話)、礼に始まり礼に終わる。武道館で日本の強豪と踊らせていただき、ありがとうございましたと敬意を示している様子。

 早朝から真剣に観戦していると、座って見ているだけで疲れます。一回負けの後、選手控え室で着替え終えてから、気分転換に武道館の中のショップをのぞくことにしました。ダンス関連のCD、メイク、ドレスや靴などが数店舗出店されていました。そこで大きな青い石のついた、一際目をひく美しいラテンドレスを発見! イギリス製とのことですが、試着させてもらったらチビの日本人の自分にお直しなしでジャストフィット。(ひょっとして、ジュニアかジュブナイル用?)先程踊ったばかりで、まだどうらんを落としておらず、ガングロです。豹柄に青い光る石の付いたラテンドレスを着ると、鏡に映った自分が自分じゃないような迫力あり。下腹の出ているチビ・ハゲおばさんが、あたかも上級選手のように見えるんですよ。魔法にかけられたかのよう。ドレスを購入することに…。
「経費で落とされますか?」
領収書を書くにあたり、お店の人が真面目な顔で聞いてきました。えっ? お教室に勤務していらっしゃる、プロの先生と思われたの?(笑)

 その日の目玉は、国内外から集まったプロのラテンアメリカン選手権です。予選の段階からどの選手も、目を見張るばかりに美しく素晴らしい。身体能力があるのはもちろんのこと、アマチュアとは動きの精度が違います。瞬きをした瞬間に、男女が入れ替わっているのですから凄い。この中から誰を選ぶの? 自分には優劣がつきません。ここにマイケルかコッキ組(前・世界チャンピオンと現・世界チャンピオン)が交じって踊っていたら、違いが自分にも分かるかもしれませんが。自信のある選手はジャッジから離れて踊り、お客様に人目をひくパフォーマンスでサービスしています。想像するだにオソロシイのですが、このフロアで自分達チビ・ハゲ組がまぎれて踊ったと仮定したら、どう見えるでしょうか。どの選手よりも、観客席から目立って見えるのでは? 競技ダンスは比較対照の世界です。自分達の動きはスローモーションか静止画像のように見えること間違いなし。(涙)

 いよいよその日のクライマックス、インターナショナルダンス選手権大会、ラテンアメリカンの準決勝と決勝です。日本人選手も凄いのですが、外国人選手は凄まじい迫力あり。日本人とは体つきからして違います。自分達はアリーナのSSS席(前から2列目)で観戦していました。後ろの席にはダンス愛好家と思われるマダム達が観戦していました。マダム達の凄まじく大きな話し声が聞こえてきます。
「準決勝に入らなければ、つまんないわよね。」
え“!? 自分に言わせると、予選において日本武道館の大ホールで踊らせてもらえること自体が、涙が出るくらいに栄誉ですけど。表彰式において、1位から3位は外国からの招待選手でした。
「なぜここに、日本人がいなの?!」
先程のマダム達は、大声で文句を言っています。はいはい、お答えいたしましよう。表彰台になぜ日本人選手がいないか、それは私たちのご先祖さまは農耕民族だからです。

 さて、ワールドカップで日本代表が南米チームに勝ったことは、歴史的勝利ですよね。世界の強豪と闘うにあたり、心肺能力を高めるために『高山の条件』でトレーニングを積み重ねたといわれる日本人サッカー選手、狩猟民族と闘うためにはスタート地点から戦略と、涙ぐましい努力が必要なのですね。2日目は朝からアマチュアのラテンアメリカン選手権が開始。ほとんどが10代、20代前半の若い選手です。注目する選手を毎年楽しみに見ていますが、その上達ぶりには目を見張ります。驚くことに若い子達でありながら、各々が自分達の踊風を持っているんですね。そして、個性を発揮しています。お恥ずかしながら大人の自分達は、個性や踏風どころか未熟で立つのが精一杯です。(涙)

 2日目の6月10日(日)、グランドシニア選手権・ラテンアメリカンにおいて。敬愛する新潟のK組は、またもや優勝! 自分達はK組の踏風が大好きです。上品で、爽やかで、透明感があります。K選手は還暦にして、新潟県選手権において学連(大学生)と闘っても、年齢差を感じさせません。ラテンダンスは個性が出て、好みも分かれますよね。ラテンといえばドロドロしていて、汗や唾が飛び散るイメージという方もいらっしゃるでしょう。(そんな人は、今どき少ない?)K選手にはフロアサイドで握手していただき、チビ・ハゲは英気をもらいました。そして次は自分達の出番、全日本シニアダンス選手権・スタンダードです。今年は50組の選手で競われました。自分達と同じヒートに、東日本県別対抗(第156話)でご一緒させていただいた新潟の0組がいます。(クラスが違いすぎ。関東甲信越の競技会ではありえへん光景)1次予選を踊らせていただいた後は、自分達は応援団に早変わりです。競技結果は、尊敬する新潟の0組は4位。自分達の憧れ、長野のT組(第128話)は5位。ちなみに、チビ・ハゲ組は48位でした。

 2日目最後は、プロのスタンダード決勝です。178組のうち、熾烈な闘いを勝ち進んだ残る7組で競われました。観客の興奮は絶頂です。優勝はイギリスのアンドレア組。日本の橋本組は3位。日本人選手が表彰台に立ちました! 会場は拍手喝采です。とてもハピーな気分になりますね。ボールルームダンスを問わず、日本のすべてのスポーツ選手を応援いたします。最後に、自分達は本年度もインターナショナルダンス選手権大会を観戦することができ、そして全日本シニア選手権に出場させていただき感無量です。そしてチビ・ハゲからのメッセージ、これはスポーツに限りません。仕事でもよし、お稽古事でもよし。日常において絶対に無理、困難と思われることも、あきらめずに戦略をたててみませんか? 人間鍛えようによっては、どのようにでも進化する! 作文が大の苦手だった自分が(第146話)、こうして文を書かせていただいているくらいですから。夢を信じましょうね。(笑)


☆「ガンバレ 日本!」

著者名 眼科 池田成子