社交ダンス物語 229 先輩を想う(前編)

コラム

 ある日のこと。糸魚川のスーパー(原信)でアボカドを買いました。実を食べて、種を鉢に植えました。
「早く芽が出ないかな。」
マンションのお部屋の、陽当たりの良い場所に鉢を置き、わくわくしながら毎日水やりを楽しんでいました。しかし、一ヶ月以上たっても芽は出ません。
「もうダメなのかしら?」
ダンスと同じです。あきらめずに、毎日アボカドに水を与え続けました。

 あくる日、同じダンス教室の先輩の、突然のご逝去の知らせを受けました。メダルテストではうちのリーダーと共に苦戦、ダンスパーティーではムードメーカーで、笑顔でルンバを踊ってくださったのに…。驚きと悲しみでいっぱいです。ふとお部屋のアボカドの鉢に目をやると、小さな芽が出ていました。その日、新しい命が芽生えたのでした。胸がジーンときて、そのアボカドには大好きだった先輩の名前をつけました。

「○○さん、早く大きくなってね。」
 毎朝アボカドに話しかけながら、真心をこめて水やりをしました。アボカドの芽は双葉となり、みるみる成長してゆきます。アボカドの成長記録をつけるのが楽しみとなりました。その成長の速さは凄まじいのです。発芽してから9ヶ月で背丈は1メートル近くに達しました。しかも葉っぱは、人間の顔ほどのサイズです。

 アボカドの成長ぶりは、驚異的です。今や自分の身長を脅かし、マンションのお部屋の天井に達するばかりの勢いです。(野生のものは、樹高が30メートルほどになるそうです)
「○○さん、凄い! 伸び過ぎ!」
嬉しい悲鳴があがるその一方で、ふとため息が出るのでした。
「○○さん、ダンスもスクスク成長していたら良かったのにね。」


☆ダンスはすぐには上達しないっ!(涙)

著者名 眼科 池田成子