社交ダンス物語 227 頭の良い女

コラム

 昔々のお話になります。お医者さん達の懇親会の席にて。お酒の勢いでしょうか? 外科系のある先生が、その場に居合わせていた私にこうおっしゃいました。
「本当に頭の良い女は医者にならない。一歩下がって、薬剤師になるね。」
当時の自分は、血気盛んな30代。男性医師からそう言われて、若き女医はビジネス・スマイル。でも内心は…
『ワタシが本当に頭の良い女だったら、医者にならなければ薬剤師にもならない。銀座か赤坂のホステスになっているわ。そしてあんたのような鼻持ちならない男がやってきたら、ガッポガッポ頂戴してやるの!』

 さてここで。「頭の良い女」とは、どんな女性を指すのでしょうか? 高級クラブのホステス、キュリー夫人のような研究者、弁護士、女流作家、女子アナ、政治家の先生(中にはとんでもない方もいらっしゃいます)などイメージされますよね。教師、ビジネスやお笑いで成功した女性もそう。でも職種を問わず頭の良い女性とは、何と言っても円満な家庭を築いている専業主婦でしょう。つまり、男(夫)をうまくコントロールしている女性ですね。なお、男衆を仕切るといえば極道の妻、そして相撲部屋のおかみさんがその代名詞。また国を動かしたり、歴史に名を残す大革命や権力の背景には、必ずといって良いほど裏で女が糸を操っていると言われます。女性の力は偉大なのですね。

 競技ダンスをしていて、実感いたします。ボールルームダンスは男と女の共同作業。踊っていてトラブルが生じた場合、男(リーダー)が悪いと不満をぶつけがちです。
「またご主人様(パートナー)の足を踏んだ!」と。(苦笑)
ここ何年も、うちのリーダーは『どんぐりの背比べ』と比喩されるスタンダードC級止まりのままです。ダンス昇級してもらいたい一念で、機関銃の弾丸のように喝を浴びせますが、これでは逆効果? 喧嘩にならないだけ、マシですって? 自分は頭が良い女とは言えませんね。頭の良い女性とは、大人しくご自身は目立たない存在でありながらも、男に自信とやる気を出させ、そして意のままにお相手を手のひらの中で転がしているアニメ・サザエさんに登場する波平さんの奥さんや、バカボンのママのような人を指すのでしょうから。

 ボールルームダンスの競技においては、クラス(ランク)は女子に付きません。その称号は男子に与えられます。背番号も然り。男性(リーダー)の背中に付けられます。ステップを決めるのも、方向を決めるのも、全て男子の役割。フロアではシビアな目で男子はジャッジされます。とはいえ、「女はいらん」と言われた30年前の外科系の医局と違い、ボールルームダンスは女子がいなければ成立しません。ダンスを嗜む人なら、皆さんA級に憧れます。A級選手といえば、『神様』です。A級のリーダーさんが凄いのは申し上げるまでもありません。それに匹敵して、リーダーさんをフォローしてA級へと導いたパートナーさんの力は実に偉大です。ダンスは二人で作り上げるもの。頭の良い女でなければ、二人の夢は実現しないでしょうから。自分達カップルの長所・短所を知り、メンタルにおいても士気を鼓舞し、三国志に出てくる天才軍師・諸葛孔明のようにコンペ(競技会)で男を勝ち上がらせるための戦略を熟知していらっしゃるのでしょうね。


☆ 「このハゲ犬!(第215話)」なんて、言っている場合じゃない?(笑) 

著者名 眼科 池田成子