自分達チビ・ハゲの楽しみの一つは、競技会のオフ・シーズンに頑張った自分へのご褒美に、フランス料理を堪能することです。糸魚川市、美山公園入り口に建つお店『アンフィートリヨン』、南フランスの小さな隠れ家のような素敵なフレンチレストランです。第169話で紹介させていただきました。ダンスと同じ、今夜はどんなお料理でチビ・ハゲを楽しませてくれるのでしょう。ワクワクいたします。今回の食のレポートは長文になりましたので、読者の皆さまはお手洗いを済ませ、首を2~3回まわし、リラックスした気分で読んでいただけたらと思います。
まずは、ビールで乾杯。1品目は、パテ。前回このお店のパテは絶品とご紹介いたしました。トップ・プロのダンスのように、客をはっとさせてくれます。緑・赤・茶の美しいアースカラーのリーフにブロッコリー、トマトやアスパラが層状に積上げられ、最上階に自家製の見事なパテが乗っています。小さく刻んだピーツ(赤かぶ)にドライ・イチジク、松の実がスターダストのように、ちりばめてあります。こんがりローストされた薄いフランスパンがトッピングされ、ピクルスとマスタードは味を引き締めてくれる名脇役。野菜達はピカピカ輝いていて、みなぎる生命力を放っています。まるでルビーやエメラルドといった宝石のよう。眺めているだけで幸せな気分になれます。ここでうちのリーダーは、老眼鏡を取り出しました。
「こんなに美しい料理、良く見なきゃ!」
老眼鏡をかけたらシャープに見えて、より美味しく感じるそうですよ。(笑)このお店の料理の素晴らしさは、見た目とパテの美味しさだけではありません。野菜の茹で具合が素晴らしいのです。煮る、焼く、茹でるという調理法は、簡単なようで実は難しい。ダンスも単純なもの(ベーシック)ほど、奥が深くて難しいですよね。ブロッコリーやアスパラは茹でて、よくお弁当に詰めます。自分が茹でたものとお店のものとは、違いがあります。マスターに野菜をおいしく茹でるコツを聞きました。まず茹でる前に、野菜を触って確認するそうです。茹で時間は決めていないとのこと。そして茹でた後も触って、再度確認するそうですよ。お医者さんと同じ、『触診』はとても重要なのですね。
オードブルの紹介のみで、長文となってしまいました。本来ならお料理の写真を掲載したいのですが、個人のブログではないので画像を掲載することは病院側から禁じられております。文豪・川端康成が日本人で初めてノーベル文学賞を受賞したのは、非常に繊細で卓説した叙述表現であり、文章から日本人の生活様式やその情景が手に取るように分かると、外国人から高く評価されたからだそうです。(翻訳した人も凄い!)よって自分も文豪を見習い、お料理がいかに美しく美味しいかを、文章でお伝えせねばなりません。とにかく一品目のオードブルは「これがメインディッシュ!」と客に思わせる存在感とインパクトあり。お皿の中は小宇宙、これはもう『大地の恵みと人が織りなす美の結晶』と称賛すべき芸術作品です。満足度200%!(笑)
ところで、寿司屋においては、寿司を食べずとも卵焼きでお店のランクが分かると言われます。フランス料理も同じ、パンで決まると思います。その日は全粒粉のパン。外はカリカリで、中はふんわり。二種類のバターが添えられています。
「パン、おかわり!」
そう言わずとも、サービスあり。(笑)ワインはシャトー ド フルーレ 2011、フランス ボルドー シュペリュール。品種はカベルネブラン10%、カベルネソーヴィニヨンブラン30%、メルロー60%。果実味豊かで丸みのある柔らかなタンニン、女性にお薦めのワインとか。
「女性好みの味って、どんな味?」
リーダーは、興味津々な様子。ダンスもワインと同じ、女性好みにリードしてもらいたいものですよね。(笑)そのお味は… フルボディでありながら、肉に合う重さだけではなく、深み、まろやかさに長けています。色もきれい。リーダー、そこでまた老眼鏡を取り出しました。ガーネットのように美しく、澄んだワインレッド。うっとり幸せな気分になれます。
「ずっと眺めていたい。」
うちのリーダーは、桃源郷の境地へと誘われているようですが…
「それって、アタシのこと?」
リーダー現実に戻った様子。
2品目はミネストローネ。中には何やら白っぽいものが見え隠れしております。
「もしや、トリッパでは?!(第169話)」
チビ・ハゲ、心中穏やかならず。その白いものの正体はトリッパではなく、水分を含んで膨らんだ押し麦でした。ほっ。(笑)料理好きの筆者、毎晩のように野菜スープを作ります。スープにはちょっと口うるさい方ですが、このお店のスープは野菜本来の甘みやうまみを、最大限に引き出しています。ひと口のんで、最初にしょっぱいと感じたら、素材そのものを殺していますので。具材はたまねぎ、ニンジン、ズッキーニ、ジャガイモ、グリーンピース、トマト、押し麦、そして細かく刻んだベーコンが隠し味のように使われています。お野菜たちは、みんな良い子。「僕はここにいるよ。」と自己主張しつつも仲良く調和を保っています。1品目と同じ、料理人はこよなく野菜を愛する人ということが、客に伝わるお品でした。
3品目は、真鯛と牡蠣のデュクレレ風。デュクレレの解説は169話にありますので、ご参考に。大粒の牡蠣と肉厚の真鯛が、ピカピカ輝いています。外食でコースを注文すると野菜不足になりがちですが、このお店はバランスを考えてくれています。真鯛と牡蠣の下には、ソテーしたホウレン草がこんもり敷かれています。ここで飲ん兵衛のチビ・ハゲ、「白ワインも下さい!」と言いたいところ。でも、ぐっとガマン。ビールで乾杯の後、2人でボトル2本空けたら、お料理をレポートさせていただく余力がなくなってしまいますので。ぷりぷりで大粒の牡蠣を目の前にして、飲ん兵衛達が鼻息荒くあえぎ、悶え苦しむ有様は、まさに地獄絵状態?
リーダー:「成子さん、ボトル頼んで、グラス1杯でやめればいいんだ。残りはお持ち帰り。」
パートナー:「あなたって、天才ね!」
そこでチビ・ハゲ嬉々揚々と、牡蠣に合う白ワインを女主人にたずねたところ、ソーヴィニヨン ブランと即答がきました。お薦めは、フランス ラングドックのジョセフ ロッシュ ソーヴィニヨン ブラン。19世紀からの歴史を誇るネゴシアン、そのジョセフ ロッシュのテーブルワイン。30社以上の航空会社が機内で採用するコストパフォーマンス抜群のワインとか。そのお味は…
「あ” 水のようにツーッと入ってゆく…」(一杯でやめるの?)
そしてチビ・ハゲ、牡蠣を口に入れたとたんに舌がダンス!
「病院職員たるもの、牡蠣を食べるべきではない。」
職員研修ミニ講座で講演してくれた看護師長が、ノロウイルス感染症の感染対策として病院職員にそう啓蒙していました。師長さん、カキ食べちゃいました。ゴメンナサイ。さて、こんな見事な牡蠣や真鯛、どこで入手したのでしょうか。マスターに聞いてみました。牡蠣は広島産、真鯛は海が荒れていたので、本日は愛媛の養殖を用いたとのことです。養殖の魚でも、こんなに美味しいの? そう言えば糸魚川産の『ひすいうなぎ』も養殖ですが、美味ですよね。
ここで、お店の床に着眼してみました。ボールルームダンスを嗜む人は、床に関心がありますので。床が桜素材やメープルなら、踊りやすいですよね。お店の床は木製で、重厚感があります。光の具合で色が変わり、紫がかった濃い茶色にも見えます。女主人に聞いたとところ、何回も塗り替えているとのこと。さすが、床にもこだわっていますね。さて、4品目が登場してまいりました。なかの真紅のシャーベット。長野県中野市で作られているリンゴを使用しているそうです。『なかの真紅』って、どんなリンゴ? 糸魚川のスーパーでは見られません。女主人が写真を見せてくれました。すると衝撃の赤。赤いのはリンゴの果肉の方です。出されたシャーベットは桜色をしています。香りよし、お味よし。甘く爽やか。女性に人気ありそう。彼女いない歴52年のリーダー君、スイーツのように女性陣からこよなく愛されたいと切実に願っていますが…(ならば、ダンス上手になって下さい。)
いよいよメインのお肉料理です。5品目は信州肉、友三角(ともさんかく)のグリル。ここでまたクエスチョン、友三角とは何ぞや? 牛の後ろ脚の付け根で内モモの下側にある球状の部分を『シンタマ』と呼ぶそうですが、その一部で外側の部位にあたるそうです。モモには脂がのりにくいのが通常ですが、トモサンカク部位には美しいサシが入り、モモの味わいにコクを加えたたいへんおいしい部位だそうです。非常に稀少な部位でありながら、最近人気が高まっているそうですよ。嬉しいことにまたお野菜(キャベツ)、そしてポテト、マッシュルーム、銀杏が添えられています。驚いたのは、その銀杏の大きさです。筆者の親指の頭ぐらいはあるでしょうか。お肉は柔らか、このままお肉と一緒に踊っていたいと舌がスウィングしています。添えられたマスタードとの相性も抜群。そして銀杏がこんなに美味しいと感じたのは、生まれて初めて。女主人に、どこの銀杏を使ったのか聞いてみました。するとこれは糸魚川産の『ひすい銀杏』で、食彩館や糸魚川の原信(地元のスーパー)で販売されているそうです。出始め(11月終わり)は、粒が最も大きいそうですよ。糸魚川って、スゴい所。さらに驚くことは、本日のお料理に使用されたお野菜全てが『糸魚川産』であったということでした。ステキ!
前段でお店のマスターは『野菜を愛する人』と陳述いたしましたが、『糸魚川を愛する人』と追記させていただきます。締めはスイーツ。6品目はクレーム ダンジュ。フランスのアンジュ地方で生まれたチーズケーキ。「天使のクリーム」とも呼ばれているそうです。フロマージュ・ブラン(フランス語で「白いチーズ」という意味)を使用しているそうですよ。真っ白でフワフワ、まるで初雪のよう。フランボワーズソース(木いちごのソース)が、その白さと美しさをより一層引き立てています。7品目が同時に出てきました。コアントロー風味のトリフとクリスマスのお菓子・シュトーレン(取材した季節は12月末)。シュトーレンに使われたドライフルーツは自家製。お店のシュトーレンは甘すぎず、ワインにもコーヒーにも合います。ここで、マスターに聞いてみました。雪のように白く滑らかなクレーム ダンジュ、このデザートは奥様(女主人)をイメージして作られたのですかと。
「デザートは妻が作りました。」
マスターはニッコリ。女主人もニッコリ。そこで客もニッコリ。お店の人との対話をふまえたお食事は粋でいいですね。酔っぱらっていては、おとなの会話が楽しめませんので。お店は開業21年だそうです。糸魚川をこよなく愛する料理人のいる店『アンフィートリヨン』、チビ・ハゲお薦めの名店です。最後に、第169話では一カ所訂正させていただきたい所があります。お店の女主人は雪のような白肌、グラマーな新潟美人とありますが、出身は筆者と同じ富山県でした。よって、富山美人ですね。そういえば、同じく色白で黒髪の筆者、学会で福岡へ行った時、「ハカタ ニンギョウ!」と外人さんから呼ばれたこともありましたっけ。(笑)
★What’s your favorite things in Itoigawa?
著者名 眼科 池田成子