社交ダンス物語 212 続・客観的に自分を見る

コラム

 新潟プレミアムカップダンス選手権大会近し。アマチュア・ラテンアメリカンにおいて、俊才な若者達(新潟大学ダンス部およびOB)にご一緒させていただき、チビ・ハゲ中年の自分達は毎年出場させていただいていることに深謝いたします。(ひょっとして新潟ダンス界の、名物おじさん・おばさんと呼ばれている?)本大会に出場させていただく目的は、勝つためではございません。そもそも学連に勝てる訳などありません。
「負けるとわかって、なぜ出るの?」
そう思われて当然。『年寄りの冷や水』と笑われることは重々承知の上です。されど人生100年時代、チビ・ハゲが出場させていただくことで、
「年寄りよ、大志を抱け!」
と、自分達と同じダンスを愛する中高年の皆さまに、勇気と希望をお贈りしたいからです。(笑)

 とは言ってみたものの、『美と技』を競い合う競技会では、若い選手に目が惹き付けられるのは当然のこと。ピカピカ輝く肌、豊かな黒髪、きゅっと上がったヒップに引き締まったウエスト、美しいライン…。若いということは、大きな武器です。他方、自分達は下腹が出てきたチビ・ハゲ中年。(パートナーは背中と脇腹にも肉がついた?)身体能力は落ちてくるし、ダンスの技術もありません。(涙)そういえば、競技用ドレスは『武士の刀』と元・日本チャンピオンが申しておられました。チビ・ハゲはこのたび対戦相手の新大生、競技会のフロアならびに観戦してくださるお客さまに敬意を表して、本大会のためのペアのラテンドレスをオーダーいたしました!(笑)

 いつもお世話になっている富山のドレス工房から、仕上がりましたという連絡が入りました。馳せ参じてお店に駆けつけたチビ・ハゲ、新しいドレスを見てパートナーは言葉が出ず。
『誰が着るの?』
頑張って作ったのよと、お店のオーナーさんは笑顔です。ドレス作製にあたり、イメージと希望の色は伝えますが、生地やデザイン等はオーナーさんにお任せしております。今まで作っていただいたドレスは、いずれも好評でした。今回仕上がってきた女性の競技用ラテンドレスは、ローウエスト。元・世界チャンピオンのジョアンナ選手が、全英選手権で着用していたデザインに似ています。自分のようなチビで短足の日本人の体型(犬で喩えるとチワワ)に合うのでしょうか? 試着してみました。
「お尻にボリュームをもたせましょう。」
オーナーさん、その場でパットらしきものを取り出し、ドレスの裏に縫い付けてくれました。クライアントの要望を満たせたと、彼女はとても嬉しそう。

 富山のドレス工房から、糸魚川総合病院へ直行。病院の講堂で、新調したペアのラテンドレスを再度着て、ふたり並んでマタニティビクスのミラーに自分達の姿を映してみました。
リーダー:「美しいドレスだね。」
パートナー:「……。うん」
リーダー:「トッププロが、引退デモの時に着る衣装のよう。」
パートナー:「……。そうだね」
鏡に映った姿を見て、ふたり口数少なし。光る石がふんだんにあしらわれたペアの純白なラテンドレス、女子はヒップ・ムーブメントをより強調させるローウエストで、上級選手に相応しいデザインです。他方男子の純白のラテンドレスは、元・全日本チャンピオンで世界ファイナリスト、気品あるラテン・ダンサーの山本喜洋先生を連想させます。エレガントでとても素敵なドレスなのに、自分達は憂鬱になるのでした。なぜって? それは競技会で自分達の踊りがドレスに伴わなければ、ただの滑稽なオジサンとオバサンになるからです。(涙)やっている時はヒートアップ、当人達の目はとんでいます。でも、客観的に自分を見る目が養われると、シニア・グランドシニアは寒くなる? ミラーの前で呆然と立ち尽くすリーダーとパートナーでした。(涙…涙)


★ 人生100年時代、中高年よ大志を抱け!

著者名 眼科 池田成子