社交ダンス物語 200 学校医の願い

コラム

 4月、5月といえば、学校検診の季節です。糸魚川総合病院の医師である自分は、糸魚川市の小・中・高校の学校眼科医を委嘱されています。学校医を25年も勤めておりますと、生徒達から『時代の変遷』を感じないではいられません。どの時代においても、『やんちゃ坊主』はいますね。眼科検診の時は、生徒達は一列に並ばされて、一人ずつ順に学校医の前に立ちます。
「ねえちゃん、ヒゲ剃ってきたのか?」
「ソリ、入れんなよ!」
これは自分が20代の頃、男子生徒(高校生)からかけられた言葉。ヒゲを剃ってきたかですって? 先生はちょっびり毛深いだけです!(第41話)ソリなんて、入れていませんよ。そこに毛が生えていないだけ!(こぶしマーク)(笑)

 さて、自分が30代にもなると、かつての『つっぱり派』の生徒はいつしか消えていました。これも時代のすうせいでしょう。他方女子は、ワイルドに。ヤマンバギャルの時代到来。ここは渋谷ではありません。田舎ではヤマンバもどき? とはいえど、女子高生達のアイメークは、競技ダンスのラテン選手に勝るとも劣らず。学校検診を終えた後の自分の指を見ると、真っ黒になっていました。平成20年頃は、眉毛をトリミングした男子生徒が出現。男の子達のヘアスタイルは、ドラゴンボールのキャラクターのよう。朝からごくろうさま。君たち何時間かけてセットしたの?
「僕、独身でーす!」
はいはい、先生は分かっていますよ。
「ケツの穴、痒いですっ。」
病院へ行きましょう。(笑)

 そして、デカ目カラコンが田舎で流行る時代へ。眼科検診の日は、お化粧をしてはいけません。カラーコンタクトレンズも禁止ですと保健の先生は指導します。でも、生徒達はどこを吹く風? 眼科検診の日も、バッチリカラコン(目が診れません!)。そもそも「してはいけない」と禁じられると、したくなるのが人間の性。筆者が高校生の時は、学校では黒以外のヘアゴムは禁止されていました。自分が学生だった昭和の時代は、悪い子には体罰が待っているのは当たり前。オレンジ色のゴムで髪をしばって登校したら、家庭科の女先生から「見せしめ」と言われ、生徒達の前で髪の毛をつかまれひっぱり回されましたよ(イテテテ…笑)。そうそう、ヘアゴムといえば平成20年代半ば頃から、学校検診の日には男子生徒に欠かせないアイテム。目にかかる長い前髪は、眼科検診には御法度。髪をしばってちょこんと立てている男の子達が、目の前に立っているのですからカワイイ。(笑)

 さて、学校医が『アラフィフ』になって感じたこと、それは自分をからかう生徒が、いなくなっていたということです。それにはうちのリーダーも同感とのこと。柔道を教えていた彼の生徒もそうだったそうです。子供達にとって『親よりも年下か』『年上か』が、からかって良い大人の判定基準?『親』の威厳とは、絶大なものなのですね。そう言われれば自分の知る限り、担任の教師に悪ふざけする生徒はいても、校長先生をからかう生徒は見たことがありません。担任の先生の名前を陰で呼び捨てする生徒はいても、校長先生は呼び捨てされません。君たちの視点からは、校長先生(偉い大人)イコール『おじいさん』なの?

 未来へとはばたく生徒諸君へ。学校医からのメッセージ。君たちはそれぞれの夢や希望を持っていると思います。でも世の中は、うまくゆかない事の方が多いのですよ。君たちの目の先生がそう。先生はお医者さんですが、競技ダンスの選手もしています。競技選手にとって、結果が出せないほど辛いものはありません。試合では、先生はいつも負けてばかり。昇級のかかった試合でワンチェック足りなくて負けた時は、全身の力が抜けて声も出ません。帰りの車の中は、まるでお通夜のよう。負け続けても、踏ん張って闘いに挑みます。そのたびに打ちのめされます。(涙)でも、先生はやめません。だから君たちも夢をあきらめないで。今はダメでも続けていれば、きっと良いことがある。そう信じましょう。挑戦だけがチャンスをつくる。先生も、そう信じていますから。(笑)

パートナー:「あなたが負けてくれたお蔭で、また良いエッセイができたわ。」
リーダー:「!!!」

著者名 眼科 池田成子