社交ダンス物語 190 ダンス、塞翁が馬?

コラム

新潟プレミアムカップダンス選手権大会、エントリーを確認すると、アマチュア・ラテンアメリカンの出場予定組数は8組。うち7組は俊才な若者達(新潟大学ダンス部とそのOB)、残る1組は自分たちチビ・ハゲ(年寄り組)。
パートナー:「柔道なら、オジさんのあなたでも、大学の柔道部をやっつけられるかもしれないわ(第176話・185話)。でも、ダンスは絶対に無理! 私たち、コラーゲンが落ちているわ。」
リーダー:「成子さん、チビでハゲているオジさんとオバさんが、新大生と同じフロアで踊らせてもらえるなんて、光栄だと思わないかい?」
パートナー:「フツーの人は、そう思わないわ。年寄りの冷や水よ!」
 
 チビでハゲているうちのリーダーの、パートナーを長らく勤めさせていただきました。女の自分には、理解できないこともあります。対戦相手は、俊才な若者達。絶対に負けるとわかっているのに、なぜ毛のない51才は戦いに挑むの? なぜ? そういえば、子供の頃に見たアニメ、宇宙海賊キャプテンハーロックに、こんなセリフがありましたっけ。
『男には、負けると判っていても、戦わなければならない時がある…』
リーダー:「ダンスを愛する中高年に、勇気と希望を与えるためだよ!」

 さて、競技会の前々週は、日本臨床眼科学会が京都で開催されました。学会参加のため、ダンスのカップルレッスンは暫しお休み。学会先にて、うちの大学教授から面談がありました。その内容とは、糸魚川から異動してもらえませんかというご要望でした。
「ダンス、まだ昇級していません! 志半ばで、終わらせる訳には…」
元来、医局員とは将棋の駒。上の言われるままに動くもの。
「Yes, sir!」
そう即答できず、あたふたしている自分がおります。
 
 その頃うちのリーダーは、パートナー不在のためひとりダンススクールにてレッスンを受けていました。その日のレッスンは、ダンスの基本中の基本、歩き方のトレーニングだったそうです。大会を目前にして、コーチャーはリーダーに指示。
コーチャー:「学会先でも、ホテルの部屋でダンスの練習はできます。すぐに池田さんのところに電話をして、今あなたに教えたことを練習しなさいと伝えなさい。」
リーダー:「……。はいっ」

 さて、学会から戻って。『泣きっ面にハチ』とは、このことでしょうか? ジャイブのレッスン中にハッスルしすぎて、リーダーは教室の床の上でスッテンコロリン。選手権をまぢかに控えて、右足首を捻挫してしまいました。『年寄り』であることはタダでさえ不利というのに、『怪我を負った年寄り』となると、いたわしくて泣けてまいります。出場は断念かと思いきや、本人は出る気満々。つま先立ちすると、痛い様子。よって、ベタ足で膝のクッションを使うしかありません。大きく動けないので足下はコンパクト、一体感を上体で意識しながら踊ってみました。コーチャーからの評価は…。
「怪我をした方が、良い踊りです。」

 試合当日。身体のいたる所をテーピングした毛のない51才、光る石のついたピンクのべべ(ラテンドレス)をまとい、フロアへと参上。
リーダー:「成子さん、僕たちは鉄砲玉だ。失うものは、何もない。」
パートナー:「あるでしょ! 髪の毛!」
試合開始直前、選手達は一斉にフロアサイドへ整列。緊迫する瞬間です。美と技を競い合う競技会において、ラテンドレスを纏った若い子達は圧巻される美しさ! 艶のある豊かな髪、キュッと引き締まったウエストにヒップライン、肌はピカピカ輝いています。比較されるって、実にオソロしいこと。その中に一組、彼ら彼女らの倍以上も長く生きてきた、チビでハゲているオジさんとオバさんがいるのですから。(親よりも年上?)
『人生は長いように見えて、一呼吸ほどの短さ』
お釈迦様は、そう説かれています。
極限状態に置かれて、元・寺の娘は悟る。
「いのち、今日限り!」
大観衆の中、オバさんなり振り構わずモーレツに踊る、踊る、踊るっ! 結果は……最下位。

 最下位、それはエッセイの良いネタになります。(笑)ちなみに、うちのリーダーは、リカルド・コッキ(世界チャンピオン)になったつもりで踊ったそうですよ。応援してくださったお客さま、本当にありがとうございます。新潟プレミアムカップ、ラテンアメリカン選手権、自分達チビ・ハゲが出場したことで、楽しんでいただけたら光栄です。

著者名 眼科 池田成子