社交ダンス物語 189 夢追人

コラム

 本年度の関東甲信越ブロック競技会は終幕いたしました。チビ・ハゲ組は持ちクラスを維持するのがやっとで、今年も昇級はなりませんでした。
「A級になる目処は、いつですか?」
うちの大学のH教授(第163話)から、このようなご質問をいただきました。あな恐ろしや! 難易度から推定すると、ダンスA級は医学部教授に匹敵するのではと、かつて申し上げました(第22話)。これは医師であり、かつボールルームダンスの競技選手である筆者の、率直な意見であります。畏れ多くも糸病コラム『社交ダンス物語』で『ダンス昇級』と吹聴しつつも、自分達は年をとる一方で一向に昇級しておりません。このままでは、読者の皆さまから自分は、『オオカミ少年』もとい『オオカミおばさん』と呼ばれても、弁明の余地もありません。(涙)
「うちのひと(リーダー)は、昇級する。いつかきっと昇級してくれるに違いない…」
そう信じて、仕事を終えてフラフラになりながらも、毎晩遅くまでリーダーに付き合い、ダンスの練習を続けてまいりました。こんな、どうしようもない、哀れなオオカミおばさんです。読者の皆さま、切ない『女ごころ』を汲んで、どうかお許し下さいませ。

 ここで、自分達はなぜ結果が出せなかったのか、クールに分析してみました。すると、あることが頭に浮かんだのです。ちまたでは、認知症の人を叱ってはいけないと言われます。「もう忘れたの!」「さっき、食べたばかりでしょ!」と認知症の老人を叱ると、本人は萎縮して、ますますボケが進行してしまいます。ダンスも同じでしょうか?「なぜ、できないの!」「そんなリードじゃ、伝わらない!」出来の悪いリーダーをガミガミ叱ると、『自分はダメ男』とインプットされて、ますますダンスが出来なくなるリスクが生じます。そこで自分は金輪際、うちのリーダーを叱らないことにしました。リーダー君、もう叱りませんので、どうか安心してくださいね。じきに『オオカミおばさん』と、呼ばれそうですけれど。(笑)

 さて、『絶対に破嚢(術中の合併症)しない白内障手術』という講演会が、かつて新潟市で開催されました。とても関心あるテーマだったので、馳せ参じて聴講にまいりました。講演をしてくださった先生がおっしゃるには、『絶対に失敗しない手術』とは、『かっこいい手術をしない』ことだそうです。そもそも執刀医というものは、手術中にカッコイイことをしたがるもの。「ああ、自分はカッコイイ!」そう陶酔しながら。(苦笑)ダンスも然り? ベーシックよりも見栄えのするバリエーションに走りがち。競技会では派手な振り付けで踊っている選手を見ると、それだけで自分達は負けたかのように思えるのです。でも、ダンスも手術と同じ。ベーシック(基礎)が何よりも肝心だったのでした。ちなみに、プロの先生が踊っているのを見て、
「かっこいい! あのステップは何?」
と、驚くことがありますが、実はベーシックだったということも…。ベーシックで人を魅せるって、凄いことなのですね。

 最後に、継続は力なり。続けていれば良いことがありますよと、あるA級選手の先輩から励ましのお言葉を戴きました。続けていれば良いことがあるのは、確かです。それは、小学生の頃から作文は劣等生、大人になってからも、ペンを握ると(パソコンに向かうと)フリーズしたまま。文を書くことが大の苦手だった自分が(第146話)、毎日コツコツ文を書き続けているうちに作文が楽しいと思えるようになったからです。糸病のコラムニストになっているなんて、20年前の自分には想像もつかなかった名誉あること。どんなに文才のない人でも、原稿用紙1枚を毎日書き続けていれば、作家になれると言われます。よって、チビ・ハゲの自分達は、ダンス昇級は無理と諦めないことにしました。道は果てしなく遠く厳しいでしょうけれど、可能性はゼロではないはず。奇跡とは、奇跡は起きると強く信じた人にのみ、起きるものでしょうから。(笑)


★夢を本気で信じましょう!

著者名 眼科 池田成子