社交ダンス物語 187 スーパーへ行こう!

コラム

 食欲の秋、仕事帰りにスーパーへ立ち寄るのがワクワクします。緊急手術や時間外診療のない限り、毎晩のように通っております。スーパーへ行くことは田舎人にとって、ささやかな楽しみですので(笑)。新米(新潟産コシヒカリ)にサンマの塩焼きはサイコーですよね。脂がのった生秋鮭にも目が惹かれます。今夜はリッチにまつたけの土瓶蒸し、栗ごはんを楽しみにしているという方も、いらっしゃるでしょう。日本人であることに感謝いたします。

 ところで、田舎の目医者、スーパーへ行くと買い物かごの中をそれとなく覗かれているように思えるのです。自意識過剰と笑われるでしょうか? まわりのお買い物客は、患者さまや病院職員が少なくありませんので。
「先生、もっと栄養のあるモノ食べなきゃ。」
「えーっ、赤ふだ!」
そんなお声がかかることも…。なるほど、改めて自分の買い物かごの中を見ると、お酒(日本酒にビール、ワイン)、ナッツとじゃがりこ、半額の値札が貼られたお刺し身、カット野菜。かごの中に、肉はありません。飲ん兵衛にとって、肉は贅沢品。肉を買うお金があれば、それをお酒へまわしますので。
『お肉代をケチって、酒を買うなんてバカじゃないの?』
健全な主婦なら、そう思われることでしょう。はい、ごもっとも。(苦笑)

 さて、地元のスーパーでよくお見かけする80代のチャーミングな女性患者さま、その日はお肉のコーナーへ筆者を誘ってくださいました。そこに陳列されているお肉の中で、どれか一つ好きなものを差し上げたいとのこと。
『ラッキー!今夜は肉だ!』
田舎の目医者、嬉しくて小躍りしそうになるところ、人目もあるのでぐっと抑えて…
「お心遣い、ありがとうございます。お気持ちはたいへん嬉しく頂戴いたしました。」
かしこまってそう申し上げたところ、その患者さま、お肉をご自身で選んでくださっている様子。手に取られたのは、しゃぶしゃぶ用の国産和牛。ちょっと待っていてくださいねと、その方はいそいそとレジへ…。(お婆さんにしては、足が速すぎ!)

 田舎の目医者、そわそわしながら遠くからその患者さまを見守っておりました。ひょっとしてこれは、患者さまからの『お布施』でしょうか? 仏教で言う布施には、様々な形があります。寺の娘であった筆者は子供の頃、布施される側は決して遠慮してはならないと教えられました。もし、布施される側が卑屈になったり、遠慮しようものなら、せっかくの清らかな布施が不純な布施になってしまうからです。ありがたく、お布施(お肉)を戴きました。その女性患者さま、お品のみならず、笑顔も施してくださいました。仏教では、笑顔もお布施のひとつ。これを、和顔施(わげんせ)といいます。

 せんえつながら、お坊さまでもないのに寄り道して『ブッキョウ』を語らせていただきました。話をダンスへ。スーパーや商店街ではBGMに、チャチャチャやサンバの曲が流れていることが多いですよね。軽快でリズミカルな音楽を聞かせることで、お買い物客の購買意欲を高める効果を狙ってでしょう。そこでは我知らず、ラテンのステップを踏んでいる自分がいます。実はスーパーは、人目を気にしなければダンスの練習ができる格好の場所なのですね。狭い通路も曲にあわせてチャチャチャのシャッセが踏めますし、レジの前で並んで待っている間も腰を八の字にくねらせてクカラチャの練習ができます。また、サンバのリズムが聞こえてきたら、「どれにしようかな?」とバウンスしながらリンゴやトマトの品定めが楽しめるのですから。(コワすぎ?)

 じきに、あんこうやブリ、白葱に大根が美味しい季節がやってまいります。ダンスをする人、しない人にかかわらず、学校や病院と同じ、スーパーは私たちにとってなくてはならない魅力的な場所ですよね。読者の皆さま、秋の夜長に筆者をスーパーで見かけたら、声をかけてくださいね!


★糸魚川のスーパーには、怪しいオバさんが出没すると言われそう…(笑)

著者名 眼科 池田成子