社交ダンス物語 174 引っ越しの後

コラム

 引っ越して5日目のこと(第166話、第168話)。マンションの新しいお部屋のインターホンが鳴りました。モニターにNHKを名乗る男の人が映っています。共同玄関を解錠すると、その人はエレベターを昇ってやってきました。
「受信料が未払いのままです。1ヶ月以上お住まいなら、支払っていただく義務があります。」
ちなみに、永らくここは『空き家』でした。もの申したら、受信料徴収係りの方、真顔でダンナを出せと。
「ダンナは、いません。」
アラフィフ独身女、きっぱりそう申し上げて、お引き取り願いました。しかし、その人は帰ろうとしません。そこでチビ・ハゲおばさん、玄関のドアストッパーをはずし、それを頭上にかざして仁王立ち。(超コワすぎ?)こう申し上げました。
「異議申し立てがあるなら、糸魚川総合病院まで!」
後でその修羅場を、リーダーに語りました。
「僕がその係りだったら、腰を135度曲げるよ。」
ダンスと同じ、お客様から嫌われたらおしまいとか。ところであの人、本当にNHKだったの? もし、病院にまでやって来たら、院長先生、事務長さん、お仕事増やしてゴメンナサイ!

 さて、話かわって。同じマンション内の引っ越しとはいえ、お部屋のタイプは随分異なります。前のリビングは和のテイスト、落ち着きがあり奥行きを感じました。今のリビングは洋風、スタイリッシュで横長です。キッチンの洗い場やガスコンロの位置は前のお部屋とは逆。お風呂や洗面所の蛇口も、左右逆に付いております。右と左が逆ですと、使い勝手も違ってきますし、物の置き場所もかわってまいります。まな板やおたまを取り出そうとして、キッチンでは別の戸棚を反射的にポンポン開けている次第です。(慣れるまで、時間がかかる?)リビングを出てお風呂場へ行こうとして、トイレに向かっている自分がいます。

 でも、何と言っても最大の違いは、新しいお部屋は角部屋なので窓が多いことです。窓が広いとカーテンが楽しめますし、明るくて開放感があります。他方、壁が少なくなった分、存分にダンスのポスターが貼れなくなってしまいました。絵画コレクターの方なら頷いていただけますよね。壁がないと、大好きな絵は飾れません。そこで、ダンスのポスターは、残したいものを厳選いたしました。現在新居に貼ってあるのは、ジョナサン・ウィルキンスとヘーゼルのハイホーバースウェイ(花開く最高のライン)、ミルコとアレッシアのスローアウェイ・オーバースウェイ(ミルコの背中、超カッコイイ!)、2010年のWorld Pro Dancingの表紙を飾ったストッケブローエ夫妻(スタンダードに負けない格調高きラテン)、2013年のINTERNATIONAL PRO DANCINGの表紙を飾ったビクターとアナスタシア(ビクターの笑顔がセクシー。医局の柱にも貼らせていただきました)の4枚です。

 最後に、引っ越して分かったのですが、前のお部屋にあった『物』の半分は、『ゴミ』でした。病院から借りてきた台車に乗せて、粗大ゴミを下の部屋から上の部屋へゴロゴロと何往復もしながら移動させておりました。かつては一斉を風靡したものは、今では骨董品。その良い例が歴代のi Mac、何年も使っていないホームシアター、弟が学生時代に使っていた87年度式の電子レンジ、娘の頃に使っていた足が壊れた姿見鏡。そしてもう着ることのない年季の入った競技用ドレスや古いダンスシューズもそう。断捨離といわれても、捨てるに捨てきれず。『下手な鉄砲も数撃てば当たる』という諺どおり、競技会に出まくり戴いた賞状やメダル、トロフィーや楯もそこそこに貯まっていました。どんなに思い入れがあっても、これから先、老健施設やあの世にまでは持ってゆけません。いずれ、資源ゴミか埋め立てゴミになっちゃうの?!


★引っ越しは莫大なエネルギーを要しますが、『物』を整理する良い機会です。ところで、「ダンナを出せ!」そう迫られたら、アラフィフ独身女性の皆さま、どうする?(笑)

著者名 眼科 池田成子