2016年、シニア・グランドシニア競技ダンス埼玉県大会。これはJBDF関東甲信越ブロックにおいて、春の開幕試合です。出場資格は『35才以上(シニアの部)』と『55才以上(グランドシニアの部)』。自分達はシニアの部に毎年出場していますが、ラテン・スタンダードともに、いつも一回負け。
ここで、ボールルームダンス(社交ダンス)とは、巷では『ジジ・ババのスポーツ』と思われていることと、ご想像いたします。『シニア・グランドシニア競技ダンス』という文字どおり、昨今のダンス界の情勢においてはそれを否定出来ません。でも、60代、70代のベテラン選手は凄まじいですよ!「こんなすごい老人がいたのか!」と、甚だ驚くばかり。『キレ』といい『スピード』といい、『立ち姿の美しさ』においても、ひと回りもふた回りも若い自分達ですら太刀打ちできません。試合では、いつも負かされっぱなし。
試合開始前。会場のフロアでわずかの練習タイムが設けられています。選手達は緊迫した表情で、最終確認をしております。ワン・ツー・スリー・フォーとカウントをとりながら、自分達もルンバの確認をしました。カールからファンのバリエーション、女子はロンデしてポーズをとるところにて。
パートナー:「あれ、どのタイミングで振り返るんだっけ?」
リーダー:「やめてよ、成子さん! 何千回も練習してきたんだよ!」
パートナー:「ツーだったわね。ツー。私、ボケちゃったのかしら? ジャッジが見ているのは、リーダー(男子)よ。私がミスしても、あなたは気にせずに堂々と踊ってね。」
リーダーは不機嫌そう。パートナーは冗談めかしてそう言いつつも、内心自分が怖くて仕方ありません。それから次のステップへ。その時です。リーダーのリードが、はたと止まりました。
パートナー「どうしたの?」
リーダー:「何だったっけ? 次のステップ。」
パートナー:「やめてよ! もう始まったの?(認知症)」
(パートナーは凍り付く)
シニアラテンA級戦、2チェックで一次予選敗退。(涙) 次はスタンダードの試合です。気を取り直し、会場の通路の片隅でホールドを組み、本番直前の最終確認をいたしました。ワルツのフォーラウェイ・リバースからテレスピンへ。リーダーは、ぎょっとした表情をみせています。
リーダー:「成子さん、テレスピンは2回だよ。」
パートナー:「1回多いんじゃない?」
リーダー:「いつもと同じ、2回したよ。」
パートナー:「あなたは今、3回したわ。」
リーダー:「!!」
決まりきっているアマルガメーションが、出来なくなっています。まるで悪夢をみているよう。試合を目前にしてリーダー・パートナーともに顔を見合わせ立ち往生。競技結果は… シニアスタンダードB級戦、5チェック。ラテンと同じ一回負け。(涙)
若年性認知症は、ストレスでミスをしているだけと思い込んで、発見が遅れることも少なくありません。自分達の場合、試合直前の「何だったっけ?」「何回していた?」は『認知症』とは診断しがたく、体で覚えていたようで実は理解が乏しかっただけなのですね。(ほっ)パートナーは、ヒール・ターンをテレスピンと錯覚して、一回多くカウントしていました。リーダーはリハーサルが不足していたと反省しています。そこで、チビ・ハゲカップルからのメッセージ。ダンスに限らず、これは仕事にも車の運転にも、夫婦関係においても言えること? 普段当たり前にしていることを120点で、正念場においては100点を目指し、より確実なものにいたしましょう。
競技会場にて
リーダー:「成子さん、お腹がすいた。」
パートナー:「さっき食べたばかりでしょ!!」
嗚呼、忍び寄る認知症?
著者名 眼科 池田成子