社交ダンス物語 170 ダンス de 快感

コラム

「あぁ 気持ちいいー!」
 うちのダンス教室の女性生徒さん、快感のあまり声をあげながら先生との個人レッスンを受けています。『女の人が声をあげて踊るなんて、コワい…』ダンス未経験の方には、いささか驚きかもしれませんね。社交ダンスでは女子は受け身なので、筆者はその生徒さんの気持ちが良く解ります。自分の場合、声はあげないまでもコーチャーと踊っている時、とりわけワルツのスローアウェイ・オーバースウェイやタンゴのコントラチェックを仕掛けられた時は、アウターマッスルが刺激されて、あまりの気持ち良さに口元がニッコリほころびますので。(笑)

 さて、今は昔。うちのリーダーと競技を始めて間もない頃を思い出します。陸の上で溺れるとは、あのことを言うのでしょう。当時の自分は息を止めて、顔を歪めながら踊っていました。苦しくなったら、「ぷはっ」と大きく深呼吸。(そんな人はザラ?)フォーラウェイ・リバース&スリップ・ピボットを仕掛けられた時は、まるで『相撲』をとっていたかのよう。相手は柔道師範のリーダー君です。その彼が歯をくいしばり、トマトのように顔を赤らめ、かよわき(?)女性に向かって全力で突進してくるのですよ。(壮絶)グリップしている右手には激痛が走ります。リーダーの爪が手の甲に、ぐいぐいくい込んできます。コーチャーが言っていました。今まで指導してきた生徒の中で、女性に爪を立てる男子生徒は3人いたそうです。うちのリーダーも、その一人とか。(涙)
「うん、うん、わかる。うちの人も、かつてはそうだった…」
そう共感してくださるパートナーさんがいらっしゃるなら、あなたのリーダーさんも希少価値の高いレアものですよね。(笑)

 「女性を気持ち良く踊らせるためには、どうしたらよいのでしょうか?」
 先日、うちの教室の熱心なダンス愛好家の生徒さんが、先生に質問していました。ダンス愛好家の方々にとって、女の人を気持ち良く踊らせることは永遠のテーマでしょうから。それができれば、パーフェクト。パーティーで『マハラジャ』になれること間違いなし。これは、『ひとごと』ではありません。その傍で、自分達も耳がダンボ。筆者の場合、リーダーに踊ってもらって「気持ち良い」と感じたのは、後にも先にもダンスパーティーで初めてルンバを踊ってもらった時だけ(第4話)。競技を始めてからは、一度もございません。あれから少しは上達してくれて、今では『爪あと』は残りませんけど。その点、プロのダンスの先生は別格です。上級者から初心者、背の高い人から低い人、太っている人から痩せている人、子供からご年輩の方々まで、あらゆる生徒さんを安心かつ安全に、その人のレベルに合わせて気持ち良く踊らせてくれるのですから。パーティーのミキシングでも、まれに凄い人に当たることがありますよね。自分は何もしなくてよいのです。それでいてフワリと体が宙に浮いて舞っているのですから…。
「私って、こんなに上手だったの?」
まるで魔法をかけられて、踊っているかのよう。(笑)

 ここで話を現実に戻しましょう。ボールルームダンスの競技会場、そこでは勝つために男と女が一体となり、熾烈な闘いが繰り広げられる場所です。
「あなたじゃ、ダメ。東宝(第142話)に行って、気持ち良く踊らせてもらうわ!」
選手控え室にて、予選を踊り終えて激しい捨てセリフが聞こえてくることがあります。アマチュア競技選手のリーダーさんへ。あなたのパートナーからそう言われたぐらいで、へこまないで下さいね。競技で気持ちよい踊りなどありませんと、うちのコーチャーも断言しております。パートナーとはいわば、難攻不落な城のごとし。あのビゾーカスさんですら、カチューシャさんから叱られたそうですよ。競技会場のフロアサイドで彼女とホールドを組んだ時に、きっぱり「No!」と言われたとか。どんなに美人妻でも、夫を振り返らせるほど困難なことはないと言われるように、上級のリーダーさんにとっても、ご自分のパートナーさんにダンスで満足させることは『至難の業』なのでしょうから。

 
★ 筆者からのメッセージ:ダメと言われても、あなたのパートナーさんにとって、あなたが一番。(笑)

ビゾーカス:スタンダードの現役世界チャンピオン

著者名 眼科 池田成子