社交ダンス物語 169 美食から学ぶ ー ダンス篇 ー

コラム

 皆さまにとって、お楽しみのイベントはありますか? 自分達チビ・ハゲに関しては、競技会のオフ・シーズンにフランス料理を堪能することです。糸魚川市、美山公園入り口に建つお店『アンフィートリヨン』、南フランスの小さな隠れ家のような素敵なフレンチレストランです。(自分達は、『糸魚川の麻布十番』と呼んでいます)お店の女主人は雪のような白肌、グラマーな新潟美人なんですよ。
 
 店内はウッディーで天井が高く、開放感があります。ワクワクしながら席に着きました。本日のアミューズは、何でしょう。あら? オーソドックスなシーフードや生ハムとは違います。料理もダンスと同じ、見る側(食べる人)をはっとさせたら勝ちでしょうけど、見た目はまさに『蜂の巣』。お店の女主人の解説によると、食材は『トリッパ』。イタリア語で、牛の『第2胃袋』を意味するそうです。煮込み料理の定番としてイタリアでは代表的な食材のひとつとか。トマトと豆で煮込んであり、薄くスライスしたパンが添えてありました。イタリア人といえば、自分達は真っ先にミルコやピノ、フィリッポさんを連想します。彼らも好んで『ハチノス』を食べているのでしょうか? その、お味は…。
リーダー:「??」
パートナー:「@♨;;;;☆!!」
   完食!(ダンスが上手になりますように)

 2品目は前菜、自家製の田舎風パテ。パテとは肉や魚などの具材を細かく刻みペースト状あるいはムース状に練り上げたフランス料理です。お皿の中はまるで現代アート。美しく織りなされたフレッシュ野菜と粒マスタードとのハーモニーは最高。「セボン!(フランス語で美味しい)」と、笑顔がこぼれます。毎年定番のように出されますが、実はこれを食べるのを楽しみに自分達はお店に訪れているようなもの。ワインは、メドック レゼルヴ スペシャル。フランスボルドーを代表するシャトーで、深い紫色です。2012年のフルボディ。香りは濃厚かつ複雑性を持っており、普段飲んでいるコンビニのワインとは別物です!こんなに深く澄んだワインレッドのドレスをまとい、ドラマティックな曲にあわせてタンゴが踊れたら、サイコーでしょうね(笑)。自家製パテとの相性も抜群です!

 3品目は季節のスープです。新潟県産のイモ・ジェンヌのスープ。ネーミングもチャーミングですね。シナモンのスパイシーな香りが効いていて、クリーミーで見た目はカプチーノ風。さつま芋の甘みの中にも、コケティッシュな『大人の女』をイメージさせます。冬のコースにもってこい、体が芯から温まりますよ。

 4品目は魚料理、真鯛のデュグレレ風。フランスの古典的な料理とか。画像でお見せしたいところですが、個人のブログではないので画像を掲載するのは病院側(総務課)から禁じられており、いかに美味しいお料理かを文章だけでお伝えせねばなりません。デュグレレとは、料理を考案した人の名前(19世紀半ばに活躍した名料理人)だそうです。魚の骨をダシにして白ワイン、香味野菜とともに煮詰めたソースが、身がしまった肉厚の真鯛にからめてあります。コラーゲンたっぷりで上質なお味。温野菜とキノコが添えてあり、ヘルシーなのも嬉しい。フランスの古典的料理、デュグレレ風、それは「骨まで愛して!」とお料理が食べる人に訴えかけているよう(笑)。

 5品目は、お口直しのリンゴのシャーベット。細かく粉砕されたリンゴの赤い皮がスターダストのように美しく全体にちりばめてあり、お口の中でほろほろと融けてゆきます。ここのお店のパンは、とても美味しいのですよ。お店のお料理が美味しいかどうかは、パンで解るというのが私の持論です。その日はケシの実パンとフランスパンが提供されました。本当に美味しいパンは、パンとワインだけで贅沢なごちそうになるんですね。

 6品目はお肉料理、牛肉の網焼きステーキ・鴨のフォアグラのせ。マッシュポテトが添えてあるのも嬉しい。フォアグラを一口含めば、舌がダンスしそう!牛肉は赤みで柔らかく、ワインがすすみます。
「ワイン、もーっと飲みたいよぉ!」
毎年このお店で、自分達は本能のままに飲み放題。お店ではさぞかし『醜態』をさらしてきたことでしょう。若い子やお年寄りの酔っぱらいはまだ可愛いのですが、オジさん・オバさんが酔っぱらっているほどお見せ苦しいものはありません。お酒も競技ダンスと同じ? 店内において、自分達は隙なくラインを保ち、アルコールで崩れそうになったら姿勢を立て直し、「見られている」を意識しました。ちなみに、ロシア人は寒いからお酒を飲むと言われますよね。フランス人はお料理を美味しく食べるためにお酒を飲むそうです。日本人は酔っぱらうために酒を飲む?
「もーっとワインが欲しいっ!」
ここでお酒とは、フランス料理をひきたててくれるための名脇役です。チビ・ハゲはぐっと我慢しました。

 7品目はデザート盛り合わせ。カボチャのプリンに洋梨とアーモンドのタルト、そしてサトウキビを使用したバニラアイス・おけさ柿ソースがけ。鮮やかな柿ソースが、視覚を刺激します。料理もダンスと同じ、お客さんが一口食べるその瞬間に、料理人のどれだけの努力と時間が費やされていることでしょう。昨年の自分達は帰り際には『桃源郷の境地』になっており、お料理をレポートさせていただけるだけの余力はありませんでした。
「お二人で、ワイン1本が適量ですね。」
女主人は笑顔で話しかけてくれました。
「今ならワルツをご披露させていただけます。」
リーダーは照れくさそう。自分達が傍から見られてクールな紳士・淑女でいられるデッドラインはビールで乾杯した後、2人でワイン1本でした。今までは自分達のペースでガボガボ飲んで、とても話かけてもらえる状況ではなかったでしょうけど、今回は女主人と会話を楽しむことができました(これぞ、まさに社交!)お恥ずかしながらチビ・ハゲは、50になって初めて大人になれたのでした。(笑)

 厨房からマスターが挨拶に出て来てくれました。
「トリッパ、いかがでしたか。」
マスター、いささか緊張気味。
「え”? トリッパですか…」
先程まで紳士ヅラしていたチビ・ハゲは鳩に豆鉄砲!(笑)
「苦手なものはありませんか?」と、予約の時にあらかじめお客さんの好みを聞いてくれるので安心です。とにかく雰囲気の良いお店ですので、読者のみなさまにも是非おすすめいたします。

 タクシーを呼んでもらい、マンションへと戻ります。昨年は、運転手さんにお礼を言って車から降りたのは覚えていますが、タクシー料金を支払ったかどうかの記憶はさだかではありません。ひょっとしてお支払いせずに降りたのでは…。あの時のお話をしたら、運転手さんはニンマリ。
「そうでしたら、病院にまで請求にまいります。」

 この度チビ・ハゲは、糸魚川のフレンチレストラン『アンフィートリヨン』の、食のレポートをさせていただきました。ダンスと同じ、美味しいお料理は人々を笑顔にし、心を豊かにしてくれます。非日常のフレンチをいただき英気を養い、明日の診療そしてダンス活動に役立たせたいと思っております。ごちそうさまでした!(笑)


ミルコ:スタンダードの世界チャンピオン
ピノ:スタンダードの世界ファイナリスト(第39話)
フィリッポ:ラテンアメリカンの世界ファイナリスト

著者名 眼科 池田成子