社交ダンス物語 167 『今』を踊る!

コラム

 朝の回診の時、腕まくりして入院患者さまと対決。
眼科医:「あ、負けました。でも、明日は○○さんには負けませんよ。」
その患者さまは、漁師さん。肌は日に焼けて見事な褐色。そう、自分は新潟県選手権に向けて、顔以外の全身にタンニングローションを塗り、入念に肌を焼いておりました(第162話)。そして試合前日、気合いを入れて患者さまと再度対決。
(ガッツポーズ)
自称『モグラ』の眼科医は、色黒対決でフィッシャーマンに勝ったのでした!(笑)

 笑ってばかりは、いられません。実際の対戦相手は、新潟大学ダンス部。つまり、自分の娘や息子ほど(もし、いたとしたら)年の差がある若い子達です。新潟県スポーツダンス選手権大会は新潟ダンス界を盛り上げる『お祭り』とはいえ、自分達のような下々のオジサン・オバサン(しかもチビ・ハゲ)が俊才な若手選手と同じフロアで踊るなんて、『とち狂った』と思われても仕方ありません。年齢別のシニア・グランドシニア選手権とは異なり、アマチュア・ラテンアメリカン選手権ともあれば、上級でもよほどの自信がない限り、中高年選手はひいてしまいますので。前期の試合にひき続き(第151話)、今回も自分達は『見世物』になること間違いなし。ジャイブが踊れると、やる気満々のリーダーをよそに、パートナーは内心憂鬱です。

リーダー:「成子さん、びびることないよ。フロアで新大生だけがビュンビュン跳ばして踊っていたら、観戦なさるお客さまや中高年の選手達は、寒い思いをするかもよ。僕たちの役割はダンスを通して、中高年に夢と希望と勇気を与えるメッセンジャーになることにあるんだ!」
パートナー:「年寄りの冷や水ね。ステキ(涙)」

 うちのリーダーは、とても勇敢です。ダンスはダメでも、その勇気だけは高く評価してあげてください。

 2015年 後期新潟県スポーツダンス選手権大会は11月23日に長岡で開催されました。試合当日、競技会場で青天の霹靂が…。東日本県別対抗競技ダンス(第156話)でご一緒させていただいたA級のK組が、パートナーさんの腰の不調で欠場なさるとのこと。全日本グランドシニア・ラテンチャンピオン、そして中高年ダンサーの守護神でもあるK組欠場となると、本大会出場で『年寄り組』は自分達だけ(涙)。

リーダー:「自分が18だった頃を思い出すよ。50歳といえばオジサンじゃない、おじいさんだ!」
アラフィフのパートナーもしかり、かつてクラスメイトから祖母の年齢を問われた時のことを思い出しました。
「成子ちゃんのおばあちゃん、お年はいくつ?」
「五十!」

 会場では、同じく東日本県別対抗の新潟県チームメンバーであった新潟大学ダンス部のG&S組が、礼儀正しく笑顔で挨拶してくれました。「今どきの若いモンは…」と愚痴をこぼしたくなることもありますが、同じ若者でも上級選手は爽やかで好感度抜群。彼らも今回の試合にエントリーしています。
S嬢:「ドレス新調されたのですね。かわいい。」
チビ・ハゲ組はこの日のために、パープルのペアのラテンドレスをあつらえました。(自分達は『紫のべべ』と呼んでいます)若い子から「かわいい」と褒めてもらい、うちのリーダーは嬉しそう。そう、年寄りは若い人から可愛がられるのが一番ですので(笑)。

 新潟県選手権アマチュア・ラテンアメリカン、出場組数は8組(若者7組、年寄り1組)。ダンスはダメなのでせめて肌を黒くしなければと、おばあさんは気合いを入れて肌を焼きましたが、若い子達も見事な黒肌。フロアでは自分は一番黒いと思ったのに、フツーでした。競技結果は申し上げるまでもなく、年寄り組が最下位。K選手そして新潟大学ダンス部のI&N組をはじめ声援してくださった方々に深謝いたします。チビ・ハゲ組がここで踊らせていただいたことで、観戦してくださった中高年のお客さまに、『勇気』をお届けすることができたなら、嬉しい限りです。(笑)

 最後に、パートナーから読者の皆さまへ、もうひとつメッセージがあります。

  えらい人も、そうでない人も
  お金のある人も、お金のない人も
  ハゲている人も、ハゲていない人も
  若い人も、若くない人も
  老いは等しくおとずれます。

  みなさん、今を大切に。
  今をめいっぱい楽しみましょう。
  今をめいっぱい踊りましょう! ね。(笑)


★翌日職場にて
看護師:「ハワイにでも行ってこられたのですか? 休暇をとられたとは聞いておりませんが。」
眼科医:「ダンスです!(笑顔)」

著者名 眼科 池田成子