ダンス練習場や競技会場では、リーダーさんがパートナーからガミガミ叱られている場面を、目の当たりにすることがあります。うちのリーダー君、よそのリーダーさんが叱られているのを見て、まるで自分が叱られているかのように小さくなって萎縮している様子。その逆もあります。パートナーさんがリーダーから一方的に責められているケース。リーダーから捲し立てられても、涙をのんでじっと耐えているパートナーさんを見ると、「私にはつとまらないわ。あのリーダーさんのパートナー役…」彼女に頭が下がります。また、競技会場で互いに罵声を上げてエキサイトしているカップルもいますよね。とりわけ層の厚いアマチュアC級選手に見受けられます。はい、はい、わかりますよ。そのお気持ち(苦笑)。競技選手なら、勝ちたい気持ちはみな同じですから。
リーダーの叔母は、横浜在住のプロのダンス教師。自分達には地元にメインコーチャーがいますが、東京の競技会に出場した翌日などは、リーダーの叔母からダンスの進達状況を見てもらっています。(年に2回程度)今年の6月、日本武道館で開催された全日本シニア選手権の翌日もお世話になりました。叔母先生は乳癌や狭心症と闘いながらも、熱心にレッスンをご教授して下さります。ティータイムでは、『パートナーの心得』を筆者に説かれました。
その1)踊っていてトラブルが生じた場合、リーダーと口論しないこと。
原因がどちらにあるか、コーチャーにみてもらう
その2)パートナーはリーダーを責めてはいけません。
シャドーで完璧に自分のパーツを踊れないのならば。
その3)喧嘩は時間の無駄です。
ふたり仲良く練習しなさい。
ふたり仲良くといえば、筆者の伯父夫婦は大の仲良し。60歳を過ぎても、ラブラブの新婚さんさながらでした。そんな伯父に当時医学生だった私は、どうしたら男女がいつも仲良くしていられるかを、たずねたことがありました。すると、意外な答えが…。
「相手の嫌な所が見えたら、片目をつぶる。片目をつぶってもまだ嫌な所が見えたら、両目をつぶる。」
伯父は、そう教えてくれました。
「両目をつぶったら、何も見えないじゃない?!」
驚く私に頷きながら微笑んでくれていた、在りし日の伯父の姿が印象に残っています。
夫婦間における『見ぬふり・気づかぬふり』は、相手への思いやりや優しさと解釈されるでしょう。他方、競技ダンスでは『結果』を追求するがゆえに、相手に『逃げ道』をつくることは致命的。
「全然出来てない!」
「それでは勝てません!」
「もっとうまくなってから、私と組んでちょうだい!」
自分のことは高ぁーい棚に上げて、うちのリーダーにそう叫びたい時もあります。でも、叔母先生の教訓どおり、それって逆効果? うちのリーダー君、柔道師範といえども、見かけと違ってナイーブです。よそのリーダーさんがパートナーから捲し立てられているのを見て、チワワのようにぷるぷる震えています。不満を抱いていては、ふたり仲良く(効率良く)ダンスの練習ができそうにありません。そこで、伯父の言葉どおり、片目をつぶってみました。
「…私もダンスが上手じゃないわ。それにこの人と同じ、チビでハゲている。ルックスといいテクニックといい、自分にはこのリーダーで分相応なのね…」
その時です。パートナーの耳元で、悪魔の囁きが…。
『リーダーは彼だけじゃないよ。よそにダンスの王子様がいるさ。』
はっと、両目をつぶります。あれ? 両目つぶったら、まっくら。スタンダードはともかく、これではラテンは踊れませんわ!(涙……笑)
★アマチュア競技選手の皆さまへ。ご意見いただきたく思います。これが競技ダンスのリーダーとパートナーが、『夫婦以上の(難しき)関係』と謳われる所以でしょうか?
著者名 眼科 池田成子