はじめに
読者の皆さま、このたび私たちチビ・ハゲ組は幸運にも6月28日に秋田県で開催された第39回東日本県別対抗競技ダンスの、新潟県チームメンバーに加えさせていただきました。栄誉あるこの大会に出場させていただけたことに深謝するとともに、東日本県別対抗競技ダンス秋田県大会を通して自分の目に映ったもの、一個人のためではなくチームの一員として戦う連帯感、踊る喜び、そしてダンスは人と人との心をつなぐというかけがえのないメッセージを、皆さまへ発信させていただきたいと思います。
Ⅰ.東日本県別対抗競技ダンス
東日本県別対抗競技ダンスとは、東日本13県のアマチュア代表選手がチームとなって、県別に順位を競い合う試合です。通常、ダンスの競技会といえば、個人が戦うものですが、本試合ではチームの一員として団結のもと戦われます。新潟県では、春に開催される新潟県選手権において、上位3組に出場権が与えられます。ラテンアメリカン選手権において自分達は5位。(第151話)優勝した選手(新潟大学4年生)がその権利を棄権し、4位の選手(この子も新大4年生)も棄権したため、その権利がチビ・ハゲ中年の自分達にまわってきたという訳です。(前期の試験で忙しいのでしょう。私自身、大学4年の6月末は、病理学の再試験に追われていました。)
Ⅱ.チームメンバーと開催地
新潟県チームは、スタンダードは新潟大学ダンス部のI&N組、A級のO組とN組。ラテンアメリカンは新潟大学ダンス部のG&S組、A級のK&S組、そして自分たちチビ・ハゲ組(B級)です。
今年は第39回目、開催地は秋田の横手市。会場は横手体育館。スタンダードチーム3組、ラテンチーム3組の12名、そして団長、監督を含めて総勢18名で観光バスでの遠征です。長岡駅バス出発時刻は午前6時。
「遅れたら、坊主頭だ!」
チビ・ハゲは覚悟し、午前2時に起きしました。午前4時前に糸魚川からマイカーにて、長岡へと向かいました。
Ⅲ.始発、長岡駅東口にて
マイクロバスが停車しています。自分達は一番乗りでした。
「はて、末席は?」
初めての合同ダンス遠征、どこに座ったらよいか勝手がわかりません。後部席に座ろうとしたらリーダーが、タクシーと同じ、そこは偉い人の座る席じゃないかと言い出します。そこで、とりあえず前の席(運転手さんの斜め後ろ)に荷物を置き、バスの通路に立って誰かが来るのを待っていました。じきに、本大会出場経験豊富なベテランのN選手(リーダー・パートナー共にご夫婦)が乗車され、どこに座ったら良いか教えてくれました。自分達は中程の座席に案内されました。その後、役員の先生が続々と乗車。新潟県ボールルームダンス連盟会長のU先生が乗車されたその時です。N選手の奥さんの、驚きの一声が…
「先生、目がありません!」
競技ダンサーにとって、『目ヂカラ』は勝敗を決める重要なポイント。目がないのは、死活問題。U先生に言わせると、もともと小さな目が、年をとったらますます小さくなったのだとか。かなり気にしていらっしゃるご様子。朝もお早う御座います。ちなみにU先生は、筆者が最初に荷物置き場にしていた所にお座りになりました。(そこはU先生の指定席?)
Ⅳ.みちのく秋田への旅路
途中、トイレ休憩や道の駅での昼食を入れて、バスは横手市へと向かいました。バスの中では、おやつやドリンク(アルコールを含む)が配られました。大先生や上級の皆さんとご一緒させていただき、チビ・ハゲは最初緊張しておりましたが、次第に修学旅行気分となってまいりました。ラテンチームのK選手が自分達の座席の後ろに来てくれて、うちのリーダーの悩みを聞いてくれています。ご自身のことも話してくださいました。今年の10月に、ニースで開催されるテンダンスの世界選手権シニアの部に出場なさるそうです。踊りには、その人の性格が現れるといわれます。新潟県選手の踊りは控えめといわれますが、K選手の踊りは品があって爽やか。ブログではご自身のことを、『スケベ親爺』と謙遜しておられますけど。
山形県から秋田県にはいりました。昼食は道の駅・象潟(きさかた)にて。日本海を見渡せる、見晴らしの良い三階のお部屋にお弁当が用意されていました。蓋を開けると、見事な有頭エビの刺し身が入っています。触ると常温、ぷにゅぷにゅしています。新潟県チームの皆さん、平気な顔で食べています。明日の試合を控えて、もしものことがあったらと箸を躊躇。でも、自分だけ助かっても仕方ありません。私も頂きました。(とろける甘さ!)食後は眠くなりバスの中でうとうと。予定よりも早く、午後1時半前に遠征地の横手に到着しました。
Ⅴ.救世主現れる?
14時30分から団長・監督会議。役員の先生は、前夜祭の会場となる横手セントラルホテルで、バスを降りられました。車中は選手だけ。自分達の宿泊先は、ホテルプラザアネックス。15時を過ぎないとチェックインできないとのこと。外は肌寒いし小雨が降っています。傘も持っていません。ホテルの前でバスから降ろされたら、どこでどう時間を過ごせばよいのかしらと皆さん困った様子。その時、とっさの行動に出たのはO選手。
「私が交渉します。」
O選手はバスの運転手さんと、向こうでやり取りしています。それからみんなに大丈夫というサインを送り、バスを降りてセントラルホテルに入ってゆきました。すぐに戻ってきましたが、その手には観光案内のマップあり。みんなの意見・要望を取り入れながら、スピーディーに横手プチ観光のタイムスケジュールを組んでくれています。その行動力に拍手!
Ⅵ.前夜祭
「めいっぱい、オシャレしてくるように…」
N選手の奥さんから伝言をいただいておりましたが、チビ・ハゲはジャージー姿で現れなくて、本当に恥をかかずに済みました。そこは、アカデミー賞授賞式の会場を連想させるラグジュアリーな空間。正装した各県のトップダンサー達が集っております。セレモニーの挨拶では『秋田美人』が強調されていました。さすが、秋田県選手団。パートナーさん達は、皆さん美しい。でも美人なら、新潟も負けておりません。新潟県選手団のN娘とS娘は『解語の花』、そしてK選手のパートナーのSさん、O選手の奥さん、N選手の奥さんの美しさをそれぞれ喩えるならば、かぐや姫、白雪姫、東洋のクレオパトラでしょうか。チビ・ハゲの自分といえば…出身が富山県なので、割愛させていただきます。(苦笑)前夜祭では正面のステージにおいて、団体戦出場チーム・選手紹介がありました。新潟県選手団のトップバッターであるI君が、「みなさんこんばんは。福山雅治です。」と自己紹介した時、会場は沸き上がりました。自分はさすがに「吉永小百合でございます。」とは言えず。県別対抗戦組み合わせ抽選会では、新潟県チームはラテン・スタンダード共にCブロックと決まりました。
Ⅶ.団結式
前夜祭終宴の後、新潟県選手団・団結式が行われました。場所は、K選手の秋田のお知り合いが紹介してくださったお店、サロンMikado(ミカド)。エプロン姿の色白のママ(男性です)が出迎えてくれました。何よりも驚いたのは、お客さんがカラオケを歌うと、高くて細長いカウンターテーブルが舞台と化し、和服姿のチーママ(本物の女性)が、その上で見事な踊りを披露してくれます。日本舞踊の先生だとか。新潟県選手団もお客さんの歌声に合わせて、ルンバやジャイブ、チャチャチャを踊りました。さすがに、床の上ですけど。それが、お店のお客さん達から大盛況。踊る側と観る側が一体となり盛り上がりました。(競技会でも、このような拍手と声援をいただきたい)
「こんなに飲んで、明日の試合は大丈夫でしょうか?」
恐る恐るA級の皆さんに尋ねたら、
「飲んだ量に比例して、ダンスは上達します。」
そう助言されました。(それ本当? ならばこの中で、自分は一番ダンスが上達しているはず。)
「タクシーを4台手配しました。順次お乗り下さい。」
お会計を済ませてくれたO選手の呼びかけに、ママやチーママ、お店のお客さん達と名残惜しくもハイタッチを交わし、新潟県選手団は店の外へ出ました。一台目のタクシーには、自分とうちのリーダー、そしてG君と0選手の奥さんの4人が乗り込みました。
『0選手は頼もしくてステキ! 結婚するなら、こんな人…』
そう思っていた矢先です。O選手の奥さん、ダンナは無駄なことをしていると指摘。タクシーは3台で良かったのに、なぜ4台呼んだのかしらと呆れていらっしゃる様子。そう言われてみれば、確かにそう。タクシーには4人乗れますから12人÷4人イコール3台。そんな単純計算、酔っぱらいにでも小学生にでも出来ます。
「3台でよかったのに、なぜ4台呼んだの?」
宿泊先のホテルに到着して、奥サマの問いつめに対し、旦那サマは懸命に弁明。
「オジサンが、4人いましたから。」
これって、紳士(オジサン)の発想?!(笑)
Ⅷ.団体戦
その日私は、ダンスは人と人の心をつなぐと深く感銘を覚えました。昨夜団結式を行ったお店『ミカド』のママとチーママが、差し入れの缶コーヒーを持参のもと、新潟県選手団の応援に駆けつけてくれていたのでした。自分達は他県から来た『一見さん』ではなく、ダンスを通して既にお友達になっていたのです。開会式は各県の監督が掲げるプラカードのもと、東日本13県の選手全員で行進しました。チビの自分はコンパスが短いため、他の選手と歩数を合わせるのに苦労しました。ダンスはみぞおちから下が足、胸から前へと自分に号令をかけ、送り足をめいっぱい使い行進いたしました。(笑)
「ファイト!」
12人の選手によるかけ声のもと、円陣を組んでのスタート。ラテンアメリカンの予選では自分達チビ・ハゲがトップバッターです。4種目を順に踊りました。試合では誰がどう見たって、チビ・ハゲ組が新潟県ラテンチームの足をひっぱっているだけ。いよいよ中位決勝へ。
「1つでも順位を上げましょう。」
K選手のパートナーのSさんに励まされ、チビ・ハゲは自分達のためではなく、
みんなのために精一杯踊りました。1種目ごとに踊り終えたら、メンバー全員と熱くハイタッチ。すがる思いで同ラテンチームのG組、K組を応援。そして、スタンダードチームを応援。結果はラテン10位、スタンダード8位。優勝は、ラテン・スタンダードともに千葉県チームでした。さすがに強い! 全日本ファイナリストを揃えています。
試合終了後は、みんなで記念撮影しました。チームが一体となって踊り終えたという達成感は、ここでしか味わえない、かけがえのない貴重な体験でした。
「仕事がなくなったら、いつでもおいで。」
最後にママは見守るような眼差しで、I君とG君に微笑んでいました。
Ⅸ.帰路
バスで新潟へと向かいます。
「私の目はありましたか?」
車中でU先生は、昨夜の前夜祭の時にご自分の目は開いていたかどうかおたずねになりました。それから眼科医の私に、目が大きくなる薬や訓練はないものかとおたずねになりました。そのようなものはございません、老人性眼瞼下垂の治療は手術が一番ですと申し上げたところ、さすがのダンスの大先生も『手術』の二文字にビビられたご様子。そこで、手術をせずとも目を大きく見せるメガネがございますと申し上げたところ、気を利かせてK選手がスマホを開き、昨夜ミカドで撮影した画像をU先生にお見せしました。カツラや仮面と一緒にお店に置いてあるグッズのひとつ。イミテーションのメガネには、巨大な目が描かれております。それをご覧になったU先生、
「かわいそうじゃない?」と一言。「私は控えめといわれますから…」小声でそうおっしゃり、トボトボと前方のご自分のお席にお戻りになりました。
車窓からは、日本海に沈む夕日が見えます。
「わあ、きれい!」
「拝みたくなる」
「ダンスが上手になれますように」
「目ヂカラがつきますように」
パートナー達の声が聞こえてきます。これこれ、選手の皆さま。太陽を直接見てはいけません。太陽光による網膜障害はソクラテスの時代から知られていて、ガリレオもなったといわれますので。
夕食は、昨日の昼食会場と同じ道の駅でした。お弁当には焼き魚や煮魚など海の幸が入っていて、食後はのどが渇きました。温かいお茶が飲みたい! でも番茶の入ったポットは、テーブルをぐるりと回り、2つともU先生の前に置かれています。「ポット、こちらへまわしてくださぁーい」と、さすがにU先生に向かって声をかけられず。隣の席に座っているリーダーも、パートナーの喉が渇いていることに気づいてくれていない様子。その時です。本大会出場最多のN選手が立ちあがってポットを取り、私の湯のみ茶碗に注いでくださったのでした。メンバーの声なき声が、聞こえたのでしょう。今回の遠征で、ダンス以外は控えめにしておられたN選手ですが、実は陰ながらチームメンバーを誰よりも温かく見守ってくださっていたのですね。感謝!(涙)
おわりに
このたび、東日本県別対抗秋田県大会に参加させていただき、新潟県チームの選手の皆さんと二日間ご一緒させていただきました。そこで私が感じたこと、学ばせていただいたことは、上級選手は外面だけでなく、内面も伴っているということ。ダンスは、人と人の心をつなぐ架け橋になるということ。そして何よりもダンスを愛するということは、人を思いやれるということです。世界中の全ての人が心からダンスを愛するならば、この世から戦争はなくなるでしょう。
著者名 眼科 池田成子