社交ダンス物語  151 ジャイブが踊りたい! 新潟県選手権

コラム

第151話 ジャイブが踊りたい! 新潟県選手権


リーダー:「成子さん、ラテン選手権申し込んだよ。」
パートナー:「あ、シニア(35歳以上の部)ね。」
リーダー:「アマチュアだよ。」
パートナー:「え”、マジ? 新大生(新潟大学ダンス部の学生)と戦うの?!」
リーダー:「ダンスは若くて上手にこしたことはない。でも若くて上手な踊りが、お客さまが喜ぶとは限らないよ。若くなくて上手でなくても、喜んでもらえる踊りはきっとあるはず。」

『この、極楽とんぼ!』
 そう叫びたい。つまり、対戦相手は自分の『セガレ』や『娘』といえるハタチ前後の若者達。アラフィフのチビ・ハゲおばさん、全裸に近い競技用ラテンドレスを着て、技もないのに若い子達とどう戦うの? 「何考えているんだ?」「ひっこめ!」って、観戦なさるお客さまから笑われるだけ。(涙)

 競技ダンスのリーダーとパートナーの関係は、夫婦以上といわれております。(第11話)カップルを結成して7年。わかっているつもりでも、リーダーが理解できない。結婚歴なしの筆者、実家の寺へかけこみ、お坊さまである弟に『夫婦』とは何ぞやとお尋ね申しました。お坊さまは姉上に向かい、ホトケ顔で仰りました。
「地獄へお伴する人」

すごぉーく、納得。(涙)

 テンダンサー(10種目のダンスが踊れること)に憧れているリーダーは、競技会でジャイブを踊るのが夢。彼にとって、ジャイブは『高嶺の花』。なぜって? 競技会でジャイブが踊れる資格を有するのは、プロフェッショナルか、アマチュアなら格式ある上級競技会のみ。昨年まで新潟県選手権は、アマチュアの部は4種目でした。本年度の春からはジャイブとヴェニーズワルツが加わり、5種目になるのだとか。
リーダー:「でなきゃ! ラストチャンスかも!」

 さて、お亡くなりになったとのことですが、リーダーが若かりし頃、最初に通っていたダンスサークルの先生は、大のジャイブ好き。サークルの始まりはウォーミングアップにジャイブを踊らされたそうです。ジャイブでシャッセを踊ったら、
「それは、チャチャチャですよ。」
故先生から、注意されたとか。そんなリーダー君、このたび春の新潟県選手権でジャイブを踊ることをコーチャーに表明。レッスンで早速踊ってみせました。自分達は懸命にヒップを揺らして踊ったつもり。コーチャーからのコメントは…
「それは、ジルバです。」

 選手権の前々週は、年に一度の日本眼科学会総会がありました。今回の開催地は札幌。4泊5日で筆者も参加してまいりました。「札幌、いいねえー。食べ物は美味しいし、観光にも行ける。」皆さんから、そう羨ましがられます。でも、ジャイブ歴2ヶ月の糸病の池田は、その日のセミナーが終了したらまっすぐにホテルへと直行。
「クイック クイック クイックぁクイック クイックぁクイック クイック
クイック…」
札幌の地で、お風呂上がりに『白い恋人』もとい『サッポロビール』を恋人に、浴室の鏡に向かってスッポンポンで腰を振る。

 4月29日、新潟市で開催されたアマチュアラテンアメリカン選手権にて。フロアサイドで整列している選手達は踊らずとも立ち姿だけで迫力あり、ラテンダンサー特有のオーラを放っています。鍛え抜かれたパートナー達の太ももはプリンと肉感あり、ピカピカ光っています。それに比べ自分の脚ときたら、トリの足かしなびた割り箸?(涙)

リーダー:「成子さん、ビビることないよ。ボールルームダンスの競技選手がみんな若くて綺麗だったら、観てくださるお客さま達は面白いと思うかい? その中に僕たちのようなチビでハゲているオジさんとオバさんがいるから、楽しいのさ。」
 
 うちのリーダーは、まさに『極楽とんぼ』の代名詞。他方パートナーは、大観衆の面前で、格上選手や若い子達と同じフロアに立たされて、生き恥晒し地獄。極限状態に置かれて、その時オバさんの脳裏にひらめきが…。長い人生『思い込み』や『勘違い』をすることも必要か?
「アタシはハタチ!」

 オバさん、なり振り構わず踊る! チャチャチャ、サンバ、ルンバ、パソ・ド・ブレ、そして最後の種目は悲願のジャイブ。オバさん、腸捻転になるかと思うほどモーレツに腰を振る! ラテン5種目を踊り終えて。競技結果は…  最下位。

 競技会でいつかはジャイブを踊りたい… 夢が叶ったリーダーは、この世の至福といった表情をしております。白熱するフロアへお伴させていただきましたチビ・ハゲ中年のパートナーでした。


★中高年の皆さまへ。頭の血管が詰まる前に、人生を楽しみましょう!(笑)
 

著者名 眼科 池田成子