ダンスを踊らせると、踊りにその人の性格が現れると言われます。「まあ、こわい」「そんなはずないわ。」女性としてそう思いたいところ。でも、踊っている時は、リーダーとの間にトラブル発生。「成子さん、早すぎ!」「待って!」「リードを受けてから、動いてよ!」などの悲鳴を聞かされます。
そんなリーダーが、パートナーに小さな絵をプレゼントしてくれました。それは、『猫』が描かれた可愛い絵はがき。上越市在住の画家さんの作品だそうです。猫はテーブルの上に両手をちょこんと合わせて、じっと待っております。テーブルの上には、おやつが乗せられたお皿が置いてあります。猫はおやつを目前にしながらすっと背筋を伸ばし、目を見開き緊張した表情。しかも目線はおやつにはなく真正面。真向かえにいるご主人さま(飼い主)の目を、じっと見据えているのでしょう。ご主人さまからの号令があるまで、『待て』の体勢をとっているのでしょうね。
ダンスを習い始めるまでは意識しておりませんでしたが、「待つ」こと「受ける」こと「ゆだねる」ことは、どうも自分の性格には向かないようです。ボールルームダンスは、女子は受け身。男子のリードを受けてから動くもの。自由奔放な筆者の性格は、ダンスのパートナーとしては不向きというよりは致命的?
性格が現れるといえば、ダンスばかりでなく手術もそうです。大学病院にいた頃は、自分が執刀させていただく以外は、先輩や後輩達が執刀する手術の見学や手術助手を勤めておりました。執刀医はハプニングが生じた時、即座に的確な見極めと決断をすることが肝心。ときには、やめる勇気も必要です。ハプニングが生じた時、執刀医の性格は如実に手術に現れるといえましょう。例えば、『虎穴に入らずんば虎児を得ず』タイプの先生の場合は、「ええっ!まだ続けるの?」他方、『君子危うきに近寄らず』タイプの先生の場合は、「ええっ!もうやめちゃうの?」(自分のことは棚に上げて、ゴメンナサイ)
さて先日、新潟市で社交ダンスの講習会があり、全日本スタンダード・ファイナリストの本池淳先生・武藤法子先生のレクチャーを受けてまいりました。講習会では『踊り』と『性格』についての興味深いお話がありました。ダンスには性格が出てしまうものですが、本池先生いわく性格と違う踊りをすることは可能とのこと。例えば、普段はだらしなく「でへへへ…」といったタイプの人でも、踊らせるとキリっとした別人になれるということですね。「性格と違う踊りをすることは可能という言葉に勇気づけられました…」講習会の終わりにうちのコーチャーが、笑顔で(しかも嬉しそうに)そう閉めのあいさつをしていたのが印象的でした。
ダンスを踊らせるとジャジャ馬、コーチャーからはあしゃしゃの踊りと注意される筆者も、自己を意識し鍛錬すれば、憧れのカチューシャ(世界スタンダード・チャンピオンのパートナー)のような、余韻を残す優雅で品格ある美しい踊りに近づくことは可能でしょうか? 執刀医に求められるものは、情緒の切り捨て。そして競技ダンサーに求められるものとは? リーダーがくれた小さな絵を眺めつつ、つれづれなるままにパソコンに向かひて、そこはかとなく糸病コラムを打つパートナーでした。(笑)
著者名 眼科 池田成子