社交ダンス物語 149 ダンスは教養

コラム

 社交ダンスは、スケベおやじがナンパ目的でするものと、世間では思われがち。社交ダンスなんてやっていると知られたら、会社から『いやらしい』とか、変態扱いされるのではないかと恐れて、秘密にしている方もいらっしゃると耳にします。さらには映画『Shall we ダンス?』のごとく、ダンスを習っていることを家族にも内緒にしている方もいらっしゃるとか…。

 さて、ここで。社交ダンス(ボールルームダンス)は、ルイ王朝時代からの宮廷ダンスがはじまりとされています。ヨーロッパにおいては、社交ダンスは『教養』とされており、ストックホルムで開催されるノーベル授賞式の後には舞踏会が開かれ、そこでは夫婦でワルツを踊るのが恒例なのだとか。なお、我が国においても、天皇皇后両陛下は都内のチャリティー舞踏会に出席なさり、公の場で優雅にワルツやタンゴをご披露なさりました。両陛下はお忙しいご公務の間に、レコードをかけて練習なさったそうです。社交ダンスは東西問わず教養であるとともに、上流社会においては『たしなみ』のようにも思われます。

 当院においても、『より教養あるドクター』を目指して、忙しい診療の間にラジカセをかけて、ダンスの練習が行われております。夜中の講堂では、レッスンでコーチャーから授かった教えを声に出して、真面目におさらいしているリーダーの姿があります。

「ハムストリング(太ももの裏側の筋肉)を使って、女子の股間に突き出す。女子はそれを受けて後ろになびき、股間を男子に突き出す。それを受けて、男子はスピンして背面に向かい、肛門を閉めて上にあがる…」

 熱心にダンスの練習をなさっている方なら、お分かりになりますよね。『ワルツ』の『スピンターン』のメカニズムです。ちなみにパートナー(女子)はその時、ステルノクライドマストイデウス(首のところを斜めに走っている筋肉)を美しくみせることを意識。ダンスを極めるためには、解剖学の知識や物理の法則を必要とします。『社交ダンス』はまさに統合された男女の奥深き『教養』と言えましょう。

 そして、社交ダンスはインターナショナル。言葉が通じなくても、初対面の外国の方と交流できる『社交』における強い味方。子供からお年寄りまでが楽しめる娯楽であり、スポーツでもあります。これまでに筆者は、ダンスの素晴らしさを力説してまいりました。それでも『まあ、いやらしい』とか、『関心ないね』と思われるなら、ちょっとガッカリ。ならばここで、架空の世界にご自身を置いて、イメージなさってみて下さい。そう、あなたは今、海外の留学先や出張先で、とある豪邸のホームパーティーに招待されているとします。もしくは豪華客船の船上パーティーで、そこではオーケストラによる生演奏が流れているとしましょう。ラグジュアリーな空間は、各国のドレスアップした紳士・淑女達で賑わっております。

「Shall we dance?」

 そんな時、ダンスでエスコートできたら(笑顔でお誘いをお受けできれば)、「ワンダフル(素晴らしい)!」って思われませんか?(笑)


☆豪華客船でなくとも糸病の講堂で、あなたも踊ってみませんか?

著者名 眼科 池田成子