3月8日、佐久市総合体育館にて、長野県大会が開催。ラテンB級維持、スタンダードC級は昇級を狙い、チビ・ハゲはエントリーする。
試合前日。入院患者さまの回診を終え、病院の講堂で明日の試合の最終確認をした。幸運を祈りつつ(実力がないので運に頼るしかない)、縁起を担いでリーダー・パートナー共にランチは『とんかつ』を食する。
練習の後、夕刻には長野に向けて糸魚川から車を走らせる。遠征地として長野の佐久市は糸魚川からそう遠くない。当日の早朝に出発しても良いのだが、大切な試合、運悪く事故や渋滞に巻き込まれて遅れたらいけないというリーダーの意向で、前夜に遠征地へ到着した。
遠征地にて。夕食をとるため、とあるお食事処へ。
「明日は、一番だ!」
お店に入るなり、嬉しそうにそう言いながら、リーダーは自分の脱いだ靴を威勢良く1の番号がつけられた下足箱へと入れる。これも、縁起担ぎのつもりらしい。それからリーダーは、味噌カツ定食を注文した。
パートナー:「お昼にカツ食べたのに、またとんかつ?」
リーダー:「カツを食べて、明日は勝つぞ!」
リーダーはとても嬉しそうだ。ちなみにパートナーは、ひつまぶしを注文する。うなぎは大好物、特別な日にしか食べられない。お酒は控えめ。リーダー・パートナー共に、ビールはジョッキ2杯にとどめる。
自分の背番号と対戦相手は、当日プログラムを手渡されてから、初めて知ることになる。さて、ふたを開いて…。リーダーの悲鳴が聞こえてきた。
リーダー:「僕たち運が悪い! とても強いヒートに当たってしまったよ。しかも他のヒートに比べて、B級選手の数が多すぎ!」
パートナー:「……。あなたも一応B級でしょ?」
ラテンB級競技会の参加資格は、持ちクラスがB級C級D級の登録選手だ。今回の出場組数は122組であった。競技種目はチャチャチャとルンバ。試合結果は…。一次予選敗退(涙)。ちなみに決勝(上位6組で戦われる)では、一次予選で自分達の隣で踊っていた選手が2組いた。気持ちを切り替えて、午後のスタンダードC級戦にのぞむ。
192組の選手が出場。競技種目はタンゴとクイックステップ。そこでは順調に勝ち進んでいた。3次予選を踊り終えて。結果待ちの時間も、リーダーは何やら嬉しそうだ。しかもジョークを言える程の余裕をみせている。
リーダー:「成子さん、中途半端に負けたら、病院エッセイは面白くないよね。ボロ負けするか、準決進出か…。」
今回のスタンダードの試合で、昇級を決めるポイントにつながるのは、準決勝(上位12組)に入ることにある。
パートナー:「よくわかってくれているわね。今負けたら、中途半端でつまらないわ。面白いエッセイにしてちょうだい。」
リーダー:「よし、スタンダードはツイているぞ!」
4次予選へと進出(ガッツポーズ)。念願の準決勝まで、あと一歩。「1に立ち姿勢、2に立ち姿勢、3、4がなくて、5にスピード!」チビ・ハゲは自分達にそう言い聞かせて、夢中になって踊る。4次予選を踊り終えて。競技結果を見に行ったリーダーは、固い表情で戻ってきた。4次予選の採点ではチェックが割れたらしく、これから同点決勝が行われるという。自分達もそこで踊らなければならないとのこと。同点決勝では12組が一斉に踊り、その中の上位7組までが準決勝へ進出できるという。
それにしても、一試合わずか1分20秒の間に、『どんぐりの背比べ』と呼ぶべき
12組の選手の順位づけをしなければならないジャッジの先生のご苦労は、相当なものでしょう。選手達にとっても、7位と8位では天と地の差。まさに、天国と地獄。8位の選手には、かける言葉はないでしょう。『悲運のダンサー』としか申し上げようがありませんので。
パートナー:「練習以上の効果は出ないわ。本番では、病院の講堂で踊っているつもりで踊ってちょうだい。」
さて、運命を分ける同点決勝の結果は……。自分達は、見事8位。
「この運なし男!」
そう絶叫したいところ。でも、一番落ち込んでいるのはリーダー本人に違いない。
同点決勝で8位の選手にかける言葉などないと思っていた。だがそこには、朗らかな声でリーダーを激励しつつ、気丈な素振りを見せているパートナーがいた。
「へこたれるな!」
パートナー:「あなたが負けてくれたお蔭で、また良いエッセイが書けそうだわ。」
リーダー:「……(意識朦朧)。そうなの?」
★悔しい思いは、エネルギーになる!(笑)
著者名 眼科 池田成子