「女の子は、かわいくなきゃ!」
高校生だった頃、同級生の男の子から言われたセリフ。
「池田、可愛げない。」
医学生だった頃は、クラスの男の子からそう言われたことも…
さて、読者の皆さまにとって『可愛い女性』とは、具体的にどのような人をイメージされますか? 私は自分なりに模索してまいりました。気がつくと答えが出ないまま、自分は『女の子』を卒業して『オバさん』へと成長し、社交ダンスに染まっておりました。医学の場合、確定診断をつけるための明確な『診断基準』があります。紛らわしいと思われる症例(疑い例)に対しても、診断基準の中の必須項目および主要項目の所定数を満たせば、『ほぼ確実例』とみなされます。しかし、『かわいさ』に関するガイドラインや診断基準がある訳でなく、競技ダンスにおけるジャッジのように、評価する側の視点や好みに左右されてしまうのですから。
「まあ、かわいい。」
「抱きしめたくなる!」
「連れて帰りたいわ!」
うちの病院の看護師さんや女医さんが、当院を受診なさるご高齢の女性患者さまを愛でているのを、耳にすることがあります。そもそも自宅へ連れて帰りたくなるような、可愛い老人の診断基準とは?
はい、こんな屁理屈をこねているから、筆者は可愛い女の子になれなかったのでしょう。『女の子』は間に合わなかったけど、可愛いオバさんになれる可能性はあるでしょうか? 果て、可愛いオバさんとは? 可愛い『女の子』や『お婆ちゃん』と呼ばれるよりも、可愛いオバさんと呼んでもらう方が、ハードルは遥かに高いのでは?
こんな筆者も、「あの頃は、かわいらしかったなあ!」と思い出すことがあるのですよ。研修医だった頃、手術室で術衣を着せてもらった時の話。術衣は、自分ひとりでは着られません。清潔域を保つため、外回りのドクターや看護師さんの介助が必要となります。首の後ろで術衣のヒモを縛ってもらう時、介助してくれた人が男の人の場合、ぽっと顔が赤くなったものでした。読者の皆さま、ウブだった頃の筆者をご想像なさって、どうかお笑い下さいませ。
ひとりで着られないといえば、『術衣』同様に『競技用ドレス』も然り。競技選手の方ならお分かりでしょうが、競技用ドレスは一概に重くて、背中や肩ひものフックなどが複雑であり、ひとりで着用することが困難なタイプは少なくありません。その場合、パートナー(女性)はリーダー(男性)からの介助(協力)を必要とします。遠征先で毛が生えている背中(第41話)を丸出しにして「早く着せてよ!」とばかりに、あごをしゃくってリーダーを催促している自分がおります。(苦笑)
そろそろ結語といたしましょう。『可愛いオバさん』の診断基準を設けるならば、その主要項目のひとつに『恥じらう女性』を推奨させていただきます。競技会場でリーダーからドレスを着せてもらう際に、恥ずかしそうに頬を赤らめているパートナーさんがいたら、ポイントが高いといえますね。
「そんなオバさん、見た事ないよ。」
「もしいたら、奇跡だ。」
人慣れ(?)している社交ダンス界において、殿方からそうコメントされても仕方ありませんけど。(笑)
★「かわいいね」いくつになっても女の人は、そう言われたいものです。
著者名 眼科 池田成子