はじめに
11月23日は、知る人ぞ知る『ダンスの日』1),2)。その日、後楽園ホールにて、東部総局のダンス競技会が開催される。一攫千金(一発昇級)を狙い、田舎からやってきたチビ・ハゲは、東京駅に降り立つ。そして国内最大級の舞踏空間を有するダンス練習場『ファースト・プレイス東京』および都内の二大ダンスホール『東宝ダンスホール』、『ダンスホール新世紀』を訪れ、最新の東京のダンス事情をリサーチし、ここに報告する。
Ⅰ.ダンス練習場『ファースト・プレイス東京』
「成子さん、人のいる改札口から出よう。」(田舎人は自動改札機がこわい。)
試合前日(11月22日)、日暮里に新しくオープンしたというダンス練習場『ファースト・プレイス東京』へと向かう。ホテルラングウッドの地下二階にある。さすが都会の練習場、エントランスもモダンでスタイリッシュだ。200坪のメインフロアに入り、その光景を目の当たりにして田舎人は固まった。柱のない広く明るいフロアでは120名ぐらいが練習していたが、見渡す限り自分の年の半分以下(20歳前後)。しかも、皆さんSA級? 関東甲信越アマチュア競技ダンス界の中で自分達は『まだ若い』と勘違いしていたが、そこでは40代は『長老』であった。ここで踊っている若い子達は、みんなウエスト細いっ! まるでフィギュアスケートの羽生結弦選手のよう。しかも練習着にも手をぬいていない。チャコット製?、TAKA DANCE製?、ハイカラだ。ホール内ではスタンダード5種目、ラテン5種目の曲が順番にかかり、練習にはもってこいである。ちなみに使用料は1回券1300円。月5回以上来る人は、正会員になった方がお得。
Ⅱ.後楽園ホール
試合当日(11月23日)、早朝から後楽園ホールの前では解錠を待つ選手達が、長蛇の列をなしていた。並んでいる選手達を見て、ほっとする。皆さん、バリバリの昭和生まれ。会場は後楽園ホールの5階。解錠と同時に、二機あるエレベーターはキャリーケースを引く(競技用ドレスや燕尾服を収納)選手達でうめつくされ、渋滞状態。エレベーターを上がって5階にある選手控え室へたどり着く。そこは、『猫の額』。よって、早めに到着して陣取る(シートをひく)べし。その際、シートは小さめに広げて(いつもの4分の1)間隔をつめること。なお、試合開始直前の、フロアサイドでの選手の点呼はない。関東甲信越の試合のように、「そのうち呼んでもらえるだろう」と悠長に構えていたら、出遅れる羽目に。さて、肝心の試合結果は…東京で『一攫千金』を夢見たが、二次予選敗退。(涙) 世の中、そう甘くはなかった。下のクラスは、都会での『バクチ』はやめて、田舎の試合(関東甲信越)で地道に頑張るべきと、チビ・ハゲは目が覚める。
Ⅲ.東宝ダンスホール
1.ゲストは岡田淳一
早々に試合を終えて。歌手でありプロの競技選手であり、エンターテイナーである岡田淳一さんが『ダンスの日』にゲストとして東宝ダンスホールにやってくるという。田舎人は岡田淳一さんを拝むため、日比谷の劇場街にある東宝ダンスホールへと向かった。
2.受付カウンターにて
東宝ダンスホール、そこは極限までダンスの美しさを追求するボールルームダンスの『メッカ』。全国各地からファンが集まるという魅力のスペース。東京で学会があった晩に訪れたことがあるが、ゴージャスで非日常の空間(第69話)。受付カウンターでは若いお店の人が、笑顔で丁寧に迎えてくれた。
「どちらからお越しですか?」
「はい、新潟です。」
ちなみに自分達は、キャスター付きキャリーケースを引いてきていない。雪国用の防寒服も着ていなければ、ゴム長靴もはいていない。なのに、なぜお店の人は一目見て、『田舎人』であると分かったのか?
「都内にはダンスホールが2つございます。1つは東宝ダンスホール、もう1つは鶯谷にあるダンスホール新世紀です。」
「へぇー、そぉなんですか。(知ってるわい!)」
自分達はどこから見られても正真正銘の『田舎人』なのだから、ここは知らないふりをしている方が、スマートであろう。(笑)
3.ホールにて
100坪の豪華絢爛なホールには、シャンデリアが煌めいている。そこでは、昨日行ったファースト・プレイス東京とは逆転現象が見られた。客の中で、自分達はダントツに若い。リーダーがジャケットを来客用の椅子にかけようとしたら、客のひとりである老紳士が彼にそっと耳打ちした。
「ロッカーに入れた方が、いいですよ。」
そう、この美しきホールでは、『景観』も重視されていたのだ。
ここで『田舎人』と『都会人』の違いについて、考察する。田舎人は新参者をこわがり、警戒し、距離を置きたがる傾向にある。他方、都会人は新参者に対して親切で、丁寧であり、友好的だ。ただし、これは紳士・淑女のスポーツと呼ばれる『社交ダンス』において言えることであり、他の職種や分野においてどうかは不明。
岡田淳一さんを生で初めてみた。まさにダンスの王子様。ドラマティックな曲の生演奏とボーカルのもと、優美な時が流れている。ここでは軽食から本格的なステーキまで提供される。ちなみに、おしながきを見ると、きゅうり一本漬けが800円。お値段も一流だ。お客様の大多数はホールの専属教師を指名して、ダンスを楽しんでいらっしゃる。カップルで来た場合、品良くベーシックで踊るがよし。安全第一、間違っても足上げやフォーラウエーリバースはしてはいけません。
Ⅳ.ダンスホール新世紀
試合翌日(11月24日)、鴬谷にある『ダンスホール新世紀』に向かう。ここは、映画『Shall We ダンス?』の舞台モデルとして知られているホールだ。全日本シニア選手権の前日に、練習のため利用したことがあったが(第106話)、イルミネーションが美しい120坪のホールは、ラグジュアリーな空間。吹き抜けの二階のサロンからは、きらびやかなホールを見下ろせる。そこは絶景!ダンスの心得が全くない方でも、ボーカルと生バンドに耳を傾け、ホールで踊っている人々を眺めていると、楽しくなれること間違いなし。(笑) ピンクの色メガネをかけずとも、ここにおいても自分達は客の中でダントツに若かった。
「怖くて、僕にはできないよ。」
怪我をさせたらどうしようと、リーダーは目を白黒させながら感心している。自分の親よりも年上で、中には腰が曲がった紳士やご婦人もいらっしゃるが、プロの専属教師達は巧みなリード&フォローで踊らせている。しかも、極上の笑顔を見せて。非日常の装いをなさったお客様達も、この世の至福を思わせる笑顔でした。
「成子さん、人のいる改札口から入ろう。」
田舎から来たチビ・ハゲは、帰路につく。
おわりに
『ダンスの日』を含む平成26年11月22日から24日までの3日間において、東京のダンス事情をリサーチし、ここに報告した。ボールルームダンスは東西・老若男女を問わず、人々の心を熱くさせ、夢と希望を与えてくれている。チビ・ハゲ中年の自分達も、まさにその魅力の虜である。ダンスの持つ不思議なパワー、絶大なるエナジー、その素晴らしさを改めて実感した。
文献
1)ダンスビュウ:p106 Dec.2014,モダン出版
2)ダンスファン :p111 Dec.2014,白夜書房
☆「池田先生、ダンスもいいですが、医学論文も書いて下さい。」そう言われたら、筆者の首は縮むばかりでございます。(笑)
著者名 眼科 池田成子