社交ダンス物語 141 ゴングは鳴った?

コラム

 筆者はよく夢をみるとご紹介させていただいたが(第140話)、先日はリーダーの姪っ子さんが登場。彼女は20代の可愛い女の子。新潟県スポーツダンス選手権大会の時、ビデオ撮影と応援にかけつけてくれた。夢の中で筆者がたらふく酒を呑み、桃源郷の境地となっているところに彼女は現れた。そしてダンスのお姉さん(オバさん)の目の前に立ち、こう言い放った。
「試合はもう始まっている。」

 どひゃっ! 目が覚める。(コワ夢。北斗の拳で、秘孔を突かれたかのよう。)そもそも競技選手が毎晩酒に浸っているようでは、すでに出遅れている。試合はフロアに立った時からではなく、普段の生活から始まっていたのだ。夢の数日後には、神戸で開催される日本臨床眼科学会を控えている。仕事もダンスも出遅れは禁物。身を引き締めなければと襟を正す。

 学会の前日、電車に乗り遅れないよう早めにJR糸魚川駅へと向かう。途中2回乗り換えて、新神戸駅に到着した。会場は、ポートピアホテル。ホテル行きの送迎バスに乗ろうとしたが、発車まで少し時間があった。さすがグルメの街神戸、駅の構内にある三宮一貫楼という豚まんの店に目を惹かれた。田舎人は吸い込まれたかのように、店の前へ。お店の人から、温めるのに2分かかると言われたが、バス時間に間に合うだろうと思い、豚まんを購入。温めてもらい、受け取ってバス停に戻った。バスは去った後であった。

「寒い…」
 豚まんに心を奪われたが故に、乗り遅れてしまった。次のバスが来るまで、20分待つことに…。11月の神戸の街を吹き抜ける風は冷たい。ひとりバス停に取り残された田舎人は、豚まんを両手に挟んで暖をとる。

 学会初日。昨夜の教訓を生かし、出遅れ禁物と胆に命じる。セミナーは当日の朝、早い者順で整理券が受け取れる。いくつものセッションに分かれて同時開催されるが、所定の人数に達したら聴講できなくなる。自分の希望するセミナーを聴講するため、受付開始10分前に整理券配布場所に向かった。一番乗りかと思いきや、受付はすでに長蛇の列!

 ダンス同様に、セミナーも場所取りが肝心だ。会場の最前列の、しかもスクリーンのド真ん中の席を陣取った(特等席)。ここで居眠りしたら、さぞかし目立つだろうなあと想像を巡らせているうちに、睡魔が襲ってきた。『出遅れ禁物』と、目覚まし時計を午前5時にセットしたのが、たたったのか。(涙)

 会場では、おやつのご案内があった。おもてなしコーナーにおいて、午後4時から開催地のスイーツが振る舞われるという。福岡の手術学会では、おやつを戴きに参上したら、お皿は空っぽになっていた(第97話)。今回のテーマは『出遅れ禁物』。15分前からスタンバる(笑)。午後4時、おもてなしコーナーでは、テーブルの上に美味しそうなお菓子が山積みに置かれた。倉敷名菓『むらすずめ』(小豆を用いた薄いどらやき風の和菓子)と、神戸名菓『床谷の和の心』(和三盆を用いたサイコロ状のクッキー)の2種類。医師達は、蟻のごとくに集まる。ほとんどが、女性医師だ。自分も負けじと、人を割って手を伸ばす。まるでバーゲンのようだ。自分は各1個ずつ取ったが、周りの女医さん達は両手に抱えきれない程に菓子を掴み取っている。そういえば、ある人のエッセイに、こうあった。『品性とは、目の前にあるものをすぐに取りに行かないこと』自分を含め、ここで群がる女性達はみな、『品性』の欠如を意味するのか?(苦笑)

 学会4日目の最終日、眼科手術のインストラクションコースを受講する。ここでも、特等席で聴いた。スクリーンに映し出された最初のスライドの文字に、二度『秘孔』を突かれる。
『検査の時点から手術は始まっている』

 神戸の学会を終えて。糸魚川駅に降り立つ。そこにはジャージー姿のずんぐりとした中年男性の姿あり。うちのリーダーだ。一週間後には昇級を懸けた大会が、後楽園ホールで開催される。学会期間中は、2人で練習ができなかった。早速病院の講堂でダンスの練習をするために、チビ・ハゲのパートナーを迎えにきたのだろう。

 挑戦だけがチャンスを作る。明日の手術、来週の試合は、もう始まっているのであった。


☆わかっちゃいるけどやめられねえ♪ ういっ。(苦笑)

著者名 眼科 池田成子