社交ダンス物語 136 アンチエイジング ダンスのススメ

コラム

 のどかな田舎のI病院でのひとこま。患者さまは医師から手術の説明を受けていらっしゃる。すると、院内の携帯電話が鳴った。医師はひとまず手術説明を中断し、電話の用件に応対する。用件を済ませて、再び手術のご説明へ。その時のことである。
「どこまで、お話しましたっけ? 」
医師は言葉を失い、目を白黒させている。

医師:「(プチ認知症)始まったのでしょうか?」
患者さま:「大丈夫ですよ。ピアニストはボケても、指だけは動くと聞きます。先生はボケても、手術をなさる手は動くでしょう。」(笑顔)
医師:「………。」(フリーズ)

 緑内障でターゲットとなる網膜の神経節細胞は、正常人でも一時間に1個の割合で死滅してゆく。人の脳細胞も、一日に10万個ずつ死滅してゆくといわれる。これは、誰しもが避けることのできない加齢に伴う現象だ。認知機能の落ちていない健康な人でも、30才を過ぎると脳重量はゆっくりと減ってゆくらしい。東京都内の某研究所によると、記憶の中で特に加齢の影響で衰えやすいのは『ワーキングメモリ』という、いくつかの情報を同時に使いながら認知的な作業を行う記憶だとか。会話や読み書き、計算などがそう。

 前述の医師(お恥ずかしながら筆者)のような、シニアの認知機能の衰えを未然に防ぐための、効果的な運動法があるらしい。体を動かしながら簡単な足し算引き算をすることが、軽度認知障害の進行阻止や改善に効果的とか。『運動』『計算』『言葉』などは、それぞれ使っている脳の部分が違うので、同時に行うと脳への良い刺激になるらしい。

 ちなみに、『社交ダンス』を嗜む人は、ボケにくいと言われている。異性と手をつなぐことは脳を刺激するが、理由はそれだけにあるのではないらしい。社交ダンスの場合、音楽を聞きながらカウントをとり、曲にあわせてステップと方向を決めて動く。同時にフロアクラフトを考え、踊っていてよそのカップルとぶつかりそうになったら、それを回避する手段を瞬時に計らなければならない。まさに、『計算』しながら『運動』しているのだ。しかも踊ってくれているお相手を退屈させぬよう、気の利いた『言葉』を交わしながら…。社交ダンスには足腰の老化を防ぐ効果もあり、脳機能の衰えを止めてくれる認知症防止にもってこいの運動法といえよう。

 さてここで、社交ダンスでステップと方向を決めるのは、リーダー(男性)の役割。筆者の場合、ダンスパーティーで殿方の目を白黒させているらしい。男性がリードする前に、相手の仕掛けるステップを予測(計算)して、自分から先に動いてしまう。
「頭の中を空っぽにして、リードにあわせて前へ出るか後ろに下がってください!」
先日のパーティーで、そう嘆願されました。「何も考えるな!」「頭をハンマーで叩かれたかのように!」こんな悲鳴が聞こえることも…。
はい、ごもっとも。社交ダンスでは、女子は『受け身』でした。でも考えなきゃ、女は先にボケちゃう?(苦笑)

著者名 眼科 池田成子