社交ダンス物語 132 リーダー出没! 富山県大会

コラム

 競技会とならば、どこにでも出没すると冷やかされるうちのリーダー君(ひょっとして、筆者もそう思われている?)、7月6日、富山県ダンススポーツ大会に出没。本大会出場の一番の目的は、『親孝行』だ。そう、富山県はパートナーの出身地。富山で開催される試合に自分達が出場するとなると、実家の母がお友達を連れて観戦にきてくれる。
 
 午前の競技種目はラテンアメリカン、そして午後はスタンダード。小学生の黄色い通学帽と同じ、競技会場においてチビはどこに居ても一目で見つけてもらえるよう、ピンク色のラテンドレスをリーダーは着用。パートナーはスカートの裾がクリンと揺れるペアのドレスで、本大会に臨む。親とお友達にカッコイイ所を見せようとハッスルして踊ったのに、ラテンは1回負け。自分達の踊りを見た、母とお友達からのコメントとは…
「あなたたちの踊り、ドレスに負けていたわ。」

 痛い所をつかれた(涙)。1回負けしたので、午後のスタンダードの試合まで、3時間ばかり時間の余裕があった。選手控え室で、母と母のお友達が差し入れしてくれたお手製のお弁当を、自分達のシート上に広げた。まるで、ピクニックに来たような錯覚に陥る。そこでありがたく、早いランチをいただくことにした。向こう側から、よその競技選手達の会話が聞こえて来る。この時間にここに居るということは、彼らも自分達と同じ早々の『負け組』なのか…
「世界チャンピオンもわしらも、(踊りは)そんなに変わらんよ。ダンスは楽しければいいのさ。」

 え”、世界チャンピオンと自分達は変わらないの?! でも、そう広言して下さるなんて、ステキ! 確かに、楽しくなければダンスじゃないわ…。ニヤリとしながら、リーダーとお弁当を食べはじめた。

 甘い味付けの卵焼きは、子供の頃に食べた懐かしい味。爆弾サイズのおにぎりと、豪快にカットされた富山の名産かまぼこ『昆布巻』と『赤巻』に拍手!  一方母友が作ってくれたお弁当には、ズッキーニの天婦羅や根菜野菜の肉巻きなど、ハイカラで繊細なおかずがきっしり詰まっていた。ていねいに皮が湯むきされたプチトマトは、70半ばのご婦人が作ったお惣菜にしては驚異的。今日という日の私達のために、気合いを入れて下さったのか。ならば、午後のスタンダードの試合は、自分達も気合いを入れねば…。

 先程から聞こえてくる殿方達(リーダー達)の会話は、声のトーンが高まりさらに盛り上がっている様子。
「午後の試合で優勝したら、おまえらみんなを加賀屋(和倉温泉の高級旅館)に連れていってやるぞ。おう、世界一周でもいいぞ!」

 い”っ、そんなこと言って、まさか優勝したらどうするの? まさかと言えば、かつてラテン選手権で、ジャイブの競技中にジルバを踊っていた1組がいた。ジャイブは上級競技会の最終予選もしくは準決勝から加わる競技種目だ。その選手、まさか準決勝まで勝ち上がれるなんて、想像してもいなかったのだろうか。

 いよいよ午後の競技がスタート。
「ダンスで一番大切なのは、楽しいことよ!」
試合開始直前に、母が声をかけてくれた。そのようなお言葉、さきほど舞台裏でも聞きましたっけ。楽しくなければダンスじゃない、そう筆者も公言しつつ(広言ではありません。公言です)、試合中は必死。楽しむ余裕などなし。
「成子ちゃん、転ばないでね!」
母も母友も、自分達の踊りを見て、はしゃいで応援してくれている。まるで園児のお遊戯を褒めている、若いお母さん達のようだ。親にとって何歳になっても、『子供』は『子供』なのだろうか…?

 スタンダードC級戦は、順調に勝ち進んでいた。
「あなたたち、次踊るのよ!」
お弁当のみならず、母友の行動力も驚異的だ! ホワイトボードに逐次貼り出される成績表をいち早くチェックして、報告に来てくれるのだから。母友は自分達よりも一段と、競技にエキサイトしている様子。

 そして、決勝で踊る。表彰式を終えて午後6時すぎ、自分達の正装姿(燕尾服と競技用ドレス)で、母と母友をホールの玄関までお見送りした。
「成子ちゃん、綺麗だったわよ。」
母はリーダーにむかって「ありがとう」と言い、彼の手を握った。

「ありがとうとお礼を言いたいのは、僕の方だよ。」
七十半ばの小さな婦人達の後ろ姿を見送りながら、リーダーはしんみりと語る。『花嫁姿』を見せてあげることができなかった、親不孝者の筆者です。読者の皆さま、富山県大会はささやかな『親孝行』となったでしょうか?


☆お母さん、今まで育ててくれてありがとう。私達は共に手を取り合い、フロアで闘うことを約束します!(笑)

著者名 眼科 池田成子