社交ダンス物語 106 4回目の挑戦! 全日本シニア選手権(前編)

コラム

 毎年6月に日本武道館で開催される全日本シニア選手権の出場資格を、ラッキーにも本年度も獲得。(笑) 試合の前日、リーダーと共に糸魚川からJRで東京へと向かう。
 
 田舎人が都会へ行くと、駅のホームに降り立った時点から様々なギャップに直面する。まずは自動改札機。自分達の住む糸魚川には、駅に自動改札機はない。小さな駅の改札口には一人の駅員さんが立っていて、丁寧に切符を受け取って、笑顔でスタンプを押してくれる。一方、巨大な東京駅の改札口は無人。何台もの器械(自動改札機)が、ずらりと並列に設置されていた。

 自動改札機の前で、田舎人は立ち止まる。投入口に切符を入れると、「シュパーン」と鋭い音を立てて、目にも留らぬ早さで切符は呑み込まれてゆく。まるで、魂を吸い取られるかのようだ。切符がなくなったら、どうするんだ? 

リーダー:「成子さん、人のいる改札口から出よう。」

 田舎人は東京駅で、駅員の駐在する改札口を探す。(苦笑)
 
 明日の試合に向けて、最終の確認練習が必要だ。映画「Shall We ダンス?」の舞台モデルとなった都内随一を誇るという『ダンスホール新世紀』で、ダンスの練習をすることにした。田舎人は山手線に乗り換えて、鴬谷へと向かう。そこにも糸魚川ではあり得ない光景があった。都内の電車には、詰め込めるだけの人が詰め込まれている。その光景は田舎人にとって、かつて映画で見たアウシュビッツ強制収容所行きの列車のようだ。

 鴬谷に到着。駅から徒歩5分のところに、『ダンスホール新世紀』はあった。
病院の許可を得て、毎晩のように病院の講堂で自分達が汗を流している『ダンス』は、20年ぐらい前までは『風俗』だったらしい。ちなみに鴬谷は、『ラブホテル街』の『メッカ』だったとか。

リーダー:「成子さん、先生の椅子に座っちゃダメだよ」
パートナー:「わかっているわ。」

 かつて銀座にある『東宝ダンスホール』へはじめてひとりで行った時、パートナーが座った席は客待ちをしているプロの専属教師の席であったというエピソードがある。(苦笑)(第69話)

 ダンスホール新世紀に入場。金曜の午後であったからだろうか? ホールはすごい人、人、人。これじゃ、チークしか踊れない。(涙) 田舎人はただただフロアサイドに立ちすくし、呆然としてホールの客を眺めていた。すると後ろから男性の声がした。

「踊らないのかね?」

 70代後半と思われる紳士が、話しかけてきた。人が多くて踊れませんとリーダーが返答したら、40年前はもっと多くの客でホールは賑わっていたという。人と人との隙間を狙って踊りなさいと、紳士から背中を押された。ダンスホールでお客さまとぶつかって、怪我をさせようものなら一大事だ。田舎人は緊迫しながら、隙間を縫うように踊る。

 さて、帰り際。非日常着から普段着へと着替え終えて、お客さま用ロッカー付近の椅子に腰掛けて、リーダーを待っていた。すると、ある男性のお客様から声をかけられた。

「先生かと思っていました。」

 その人は、北海道からダンスツアーで、東京へ来たらしい。傍目からは、リーダーが女性の専属教師に踊ってもらっていると思われていたようである。(笑) そういえば、社交ダンスを全く知らない弟が、初めて競技会でうちのリーダーの踊りを見て、その後でクリクリヴィー選手(世界ファイナリスト)が踊っているDVDを見た時のコメントは、「二人のどこが違うの?」であった。
 
 一日の閉めはお酒。安い居酒屋を求めて、田舎人は夜の九段下を歩きまわる。一品290円という魅力的な店があったので、店内に入った。お世辞にもシックでモダンとは言えない店だが、出されたお通しに、はっとさせられた。握り寿司が一貫。ネタの白身魚は輝いている。料理は『器が命』とも言われるが、色彩といい形といい、器の小皿との調和も見事。安居酒屋で、「ヤラレタ!」という感じ。(笑) ダンスも同様。見る側を、はっとさせた者が勝ちだ。

 明日は待望の、日本インターナショナルダンス選手権大会が開催される。国内外のトップ・プロならびにトップ・アマチュアは、どんな衣装でどんな踊りを披露してくれるだろうか? 楽しみである。そして幸運にも、同じフロアで踊らせていただけるチビ・ハゲの自分達の踊り(運命)はいかに? 

著者名 眼科 池田成子