競技会に向けて、毎晩のようにダンスの練習に勤しむ筆者であるが、本業は医師。定年退職でもしない限り、“ダンスに夢中”という訳にはゆかないようだ。1月末に開催される、日本眼科手術学会総会に参加。本年度の会場は、福岡の国際会議場である。
糸魚川から、福岡は遠い。飛行機はお金がかかるので(JRの倍料金)、普通列車に揺られて富山へ向かい、富山からサンダーバードで新大阪へ行き、新幹線に乗り換えて博多へと向かった。子供の頃から現在に至るまで、大の苦手といえば『お勉強』と『作文』だ。とはいえ、勉強嫌いの池田医師、遥々福岡まで来たのだから、せめて学会ぐらいは真面目にお勉強をせねばと、早朝から気合いを入れる。
会場にて。外国、そして我が国の著名な医師達と、廊下ですれ違う。眼科領域のブラック・ジャックと称されるべき大先生の実物をまぢかで拝むことができるなんて、興奮してゾクゾクする。会場でうちの大学教授と、偶然顔を合わせた。教授先生、池田医師に向かって、おもむろに口を開かれる。
「学会の時ぐらい、朝はゆっくり寝ているものだ。」
手術学会の教育セミナーでは、基本に返ることの重要性が説かれていた。ダンスも同様に、基本に忠実であることが肝心だ。会場では、何事もダンスに置き換えて考えている自分がいる。(笑)ランチョンセミナー(ランチタイムのミニ講座)では、会場内の入れ替わりの時間まで、医師達は列を作って外で待つ。整理券を持ち、自分も列についた。自分の前に並んで立っている女医さん達は、スラリと背が高く、綺麗で髪の毛も艶やかだ。試合でこんなパートナー達と闘ったら、『技』が同等ならチビ・ハゲの自分には勝ち目がない…。セミナーの列に付きながら、競技開始直前の選手達が一斉に立ち並ぶ、緊迫したシーンを連想する。(苦笑)
会場のスクリーンに、おやつのご案内があった。学会参加者には器械展示・学術展示会場において、午前9時と10時半と午後の3時に、福岡の代表的なお菓子がサービスされるらしい。プリンやダックワーズ(アーモンド風味のメレンゲを使った焼き菓子)、クレープに鶴乃子(黄味あん入りのマシュマロのぷにゅぷにゅしたお菓子)、めんべい(明太子煎餅)にクロワッサンなど、どれも美味しそうだ。時計が午後3時をまわった。「いざ、出陣!」とばかり、おやつを戴きに参上したら、お皿は空っぽになっていた。(涙) これもまさに、競技会と同じ。出遅れたら、おしまいであるという自分への教訓となった。(苦笑)
会場の廊下や休憩所では、医師達の話し声が飛び交っている。「自分をさらけ出さない奴は、手術は上達しない…」こんな会話が聞こえてきた。どうやら『医師』という職業は、プライドの高い人に多くみられるらしい。『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』と言われるが、学会明けの火曜日にうちの教授が糸病へ来られる。よし、わからない事は、何でも教授先生に聞くぞ!と思ったが、実際に聞いたら、「そんな事、研修医でも知っている。」と言われそうで、首根っこが縮こまる。(苦笑)
三日間にわたる手術学会は、あっという間に過ぎていった。最終日、九州は暖かいというイメージがあったが、1月末の博多は雪がちらついていた。帰りの新幹線に乗る2時間前、あらかじめ予約を入れておいた博多駅前のドレス屋さんへと足を運んだ。そこで、今年の6月に開催予定の、全日本シニア選手権で着る競技用ドレスの打ち合わせをした。一昨年前、福岡で学会があった時に、ご縁あってそのお店に寄せていただいたが、「以前より、ふくよかになられましたね。」というお店の人の言葉に、また首根っこが縮こまる。(苦笑)
今日の自分を、明日からの診療へと役立てよう! 本学会参加にあたり、地域の中核病院である当院の、眼科外来の休診を許可してくださった院長先生に、厚く御礼申し上げます。有意義でとてもエキサイトした、三泊四日の福岡の手術学会(旅?)であった。
著者名 眼科 池田成子