社交ダンス物語 92 祝・初めてのドレスショー

コラム

 先般、富山市内のドレスメーカーで、ペアのラテン用競技ドレスをオーダーしたが(第81話)、そのお店からデモの依頼があった。ドレスメーカー主催の第一回目のドレスショーを開くそうで、例のドレスを着て一曲踊ってもらえないかとのことであった。

 デモの依頼が来るなんて、とてもラッキーなこと。種目と曲は何にしようかと、頭を抱えるパートナー。大勢で一斉に踊り出す競技会と異なり、デモは始めから終わりまで、一組が全視線を浴びる。ちなみに自分といえば… ルンバは真っすぐに立てなくて、ボロが目立つ。チャチャチャは基本となる『チャチャ』のステップが踏めない、音に早くなってしまう。サンバはうねるような『バウンスアクション』という腰の動きが出せない。パソ・ド・ブレも苦手。ジャイブは論外。要するに、得意種目なし。(涙)。それでも人様の前で姉を踊らせたら、少しでもマシに見える種目は何かと、素人の弟に聞いてみる。

弟:「女医さん(弟からそう呼ばれている)の踊り、誰も見ていないよ。」
姉:「え”?」
弟:「要は、ファッションモデル。」
姉:「……。」

 さて、デモの依頼があったことを今度はリーダーに伝える。リーダーも、名誉なことと大喜び。自分達を少しでも格好よく見せるためには、どの種目を選んで踊ったら良いかと、彼は真剣に考え込んでいる。

パートナー:「あなたの踊り、誰も見ていないわ。」
リーダー:「?!」
パートナー:「要は、ファッションモデル。」
リーダー:「……。」

 ちなみに種目はルンバ、曲は『Lo Mejor De Mi』に決定。(これ、スペイン語?) この曲に合わせて、世界ファイナリストのスラヴィック・クリクリヴィー選手が官能的にルンバを踊っているDVDを見て、『僕もいつか、あんな風に踊りたい!』と、リーダーは大いなる憧れを抱いたそうである(笑)。人様の前で踊って、恥をかかぬようにとリーダーに諭され、学会まぢかで仕事疲れが絶頂の中も、真夜中に病院の講堂でダンスの練習が行われた。

 ショーの当日。舞台裏では出場される皆さんは、どなたもドレスメーカー製の、目を惹く新作の衣装をまとっている。自分達といえば、パートナーはアラビアンナイトを連想させる露出度満点のピンクのドレス、リーダーは黒地に光るピンクの石がふんだんにあしらわれたゴージャスなペアのラテンドレス。上手く踊れるかどうかが心配であったが、想定外の緊張とキョーフが突如、自分に襲いかかった。驚く事に、リハーサルなし。しかも本番では、皆さん本物のモデルのように、壇上で堂々とポーズを決めている。ただ踊れば良いと思っていたパートナーは、その光景を目の当たりにして大慌て(爆笑)。
 
 いよいよ自分達の番がきた。いわゆる“ファッションモデル”の知識や心得が全くないパートナー、ドレスの解説中はステージで真正面を向いたまま、カチカチの棒立ち状態(涙)。一方リーダーは、しなやかにモデルウォーキングをしながら華麗なターンをみせて、解説に合わせて次々とポーズを決めている。(一体いつ、そんな練習をしていたの?)しかも棒立ちしているパートナーをよそに、『皆さま 僕はここにおります!』とばかりに両手を広げ、悠々と誇らしげな笑顔で、カメラ目線で自分をアピールしている。(この、裏切り者っ!!)
 
 ドレスの解説が終わると、次は(おまけというべき?)ダンスのデモとなった。競技会と異なり、点数を付けられなければ、周りにはライバルとなる対戦相手もいない… もといっ! 先程のリベンジ(笑)。ライバルは、一緒に踊るリーダー君だ! 情熱的な『Lo Mejor De Mi』の曲が流れた。ルンバは『男と女』の愛のかけひき。今度はリーダーよりも、自分の方が目立ってみせるとばかり、お客さまに向かって満面の笑みでアピールして踊る。

 競技会ではほとんどもらえない拍手と笑顔を、デモではお客さまから沢山いただく(笑)。ショーを終えて、その日の勤めを無事(?)果たし、ほっと胸をなでおろしたリーダーとパートナーであった。


☆ ルンバは男と女の、愛のかけひきを表現する踊り。ところで、男と女の愛のかけひきって、何?

著者名 眼科 池田成子