社交ダンス物語 84  再び武道館へ! 全日本シニア選手権

コラム

「僕たちが出場するからといって、命をとられることはないだろう…」
 
 技も身長も髪の毛もないが、度胸だけはSA級のリーダーだ。昨年にひき続き、毎年6月に日本武道館で開催される全日本シニア選手権に挑戦する。(ダンス物語・第63話)

 直前のレッスンにて。足はどんなに激しく動いても、上体は静かにとコーチャーから言い渡される。水が入ったコップを手に持たされて、その水をこぼさぬようダイナミックに踊るトレーニングを受けた。

リーダー:「先生、試合では僕たちを応援してくださいますよね」
コーチャー:「もちろん。当日の朝、出発するからね。君たちが2次予選で闘っている頃に、会場に到着するだろう。」
パートナー:「……。(それって、もう終わっている時間です)」
 
 大会初日。シニア・ラテンアメリカンの競技種目はチャチャチャとサンバ。エントリー表を見ると、日本全国からA級ならびに各県のチャンピオンクラスの選手達が出場。自分達の背番号は33番。日本武道館の大ホールは、普段試合で踊っている体育館とは全然違う。とにかく天井が高い。そして上からは、強烈なライトで照らさる。

 1次予選開始。強豪達により、熾烈な戦いが繰り広げられた。まるで、コロシアムの真ん中で闘っているイメージだ。いよいよ自分達の出番が来る。光る石がふんだんに付いた、リオのカーニバルのような戦闘服を纏い、目線を上にしてサンバを踊る。二階席の観客を見上げたその時、あまりの高さと広さと眩しさにフワァンときた。突如、自分に大地震発生。スピンで転倒寸前となる。驚いたのは、リーダー君。予期せぬハプニングに、立ち止まったまま向かい合い、お見合い状態(涙)。

 1次予選を踊り終えて、二人はまるでお通夜のようであった。ゼロチェックと思いきや、4チェック入っていた(1次予選敗退)。日常着へと着替え終えたところで、コーチャーが到着。ニコニコしながら、選手控え室に入ってきた。

コーチャー:「どうだったかね?」
リーダー:「だめでした。」
パートナー:「穴があったら、入りたい。」
コーチャー:「大丈夫。大勢が踊っているから、失敗しても自分達が思っているほど、下手さは目立ちませんよ」
リーダー:「明日のスタンダードの対戦相手も、遥か格上です。僕たちは、試合にどう臨めば良いでしょう。」
コーチャー:「まわりをカボチャと思い、武道館のフロアを全支配するつもりで踊りなさい」
パートナー:「……。」
リーダー:「……。はい。」

 大会二日目。シニア・スタンダードの競技種目は、ワルツとスロー・フォックストロット。自分達の背番号は67番、第4ヒートであった。そして、1次予選開始。

パートナー:「水が入ったコップだなんて、手ぬるいわ。ビールがなみなみと注がれたピッチャーを持って踊ると思ってちょうだい。こぼしたら、今夜のビールはないわよ。」
リーダー:「了解!」

 ロイヤルブルーのシンデレラのドレスのような戦闘服を纏い、いざフロアへと入場。ワルツの曲が流れる。二人は必死になって、踊る・踊る・踊るっ!(笑)
……ピッチャーの中身は、空っぽになっていたでしょう(苦笑)……

 さて、試合結果は…。ラテンと同じ、4チェック(1次予選敗退)。

パートナー:「私達が出場したのは、“身の程知らず”でしょうか?」
コーチャー:「家を建てる時、総額貯めてから建てますか? ダンスも同じです。巧くなるのを待っていたら、年をとってしまいます。」

 挑戦だけがチャンスを作る! 40代チビ・ハゲは、『今』を全力疾走するのであった(笑)。


☆ 全日本シニア選手権:出場資格が男女とも35才以上のアマチュア選手。

著者名 眼科 池田成子