2012年度、春期関東甲信越競技ダンス群馬県大会の数日前のことである。憧れの王子様(第60話)から、メールが届いていた。
-先生とは、男と女としての付き合いではなく、人と人の付き合いと思っていました。(中略)貴重な時間お付き合いいただきまして、ありがとうございました。-
…これって、お別れメール? アタシ、(やはり)ふられちゃったの?!…
まる3年間、想い続けてきた王子様からこのようなメールをもらい、落胆したパートナー。声も力も出ず。(涙)ほぼ同時期、リーダーは左膝を腫らし、うちの整形外科のヒゲの先生のお世話になっていた。
群馬県大会の試合当日、パートナーはまだ失恋のショックから立ち直れず。一方リーダーは、鎮痛剤で試合に臨むことに…。午前の試合はラテンアメリカン、種目はチャチャチャとルンバであった。試合では集中力が必要であり、メンタルな部分は踊りにも影響してしまう。ルンバは男と女の『愛』の踊りというのに、失恋で落ち込んでいては、『愛』など表現できそうにない。そこでパートナーは、自分に言い聞かせた。
…医師に必要なもののひとつに、『情緒の切り捨て』がある。そうよ、ダンサーにとっては、『成りきる』ことが必要なんだわ!…
リーダーを無理矢理自分の『カレシ』と思い込み、観客やジャッジに向かって造り笑顔で踊るもその結果は… チャチャチャは3チェック、ルンバはワンチェック、見事一次予選落ちであった(涙)。
寒い…
身も心も冷えきったパートナー、熱い缶コーヒーで暖をとろうと重い腰を起こして、会場に設置してある自販機の前へと向かった。“ HOT ”を押したつもりが、出て来た缶コーヒーを手にとると、ひやりと冷たい。それはまぎれもなく“ ICE ”であった。
ちなみに午後のスタンダードの試合結果は… 二次予選敗退であった。
お外は桜が咲いているというのに、心はまるで氷河期か? 前橋から糸魚川へ向かう帰りの車の中、パートナーは無言。まるで、お通夜のようであった。途中休憩に、リーダーは赤城高原サービスエリアに寄った。いつもなら、競技結果の善し悪しにかかわらず、『一遠征・一珍味』とばかり嬉々と地元の名産物を酒の肴にゲットするのであるが(第15話)、助手席から立ち上がる気力も出ず。自分はカレシも出来なければ、ダンスも不器用、結婚にも縁がないチビ・ハゲ中年女と思うと、哀れで泣けてきた。(涙)するとリーダーが、休憩から戻ってきた。
「成子さん、HOTですよ。」
熱いコーヒーをリーダーから施された。一口飲むと、摩訶不思議。これにはダンスがしたくなる媚薬が入っていたのか?
挑戦だけがチャンスを作る! 次の新潟県シニア選手権に向けて、40代チビ・ハゲカップルは、ダンスのスイッチをONにした。(笑)
著者名 眼科 池田成子