社交ダンス物語 66 「リーダーとパートナーの会話 3」

コラム

 夏も盛り。省エネのためエアコンをつけない病院の講堂には、毎晩のようにダンスの練習に取り組む中年男女の姿あり。「暑い、暑い」とあえぎながら、リーダーはペットボトルを机の上に何本も並べて、練習中にゴクゴクと飲んでいる。

パートナー:「そんなに飲んだら、ペットボトル症候群になるわよ。」

リーダー:「喉乾くんだもの。成子さんは飲まなくて、よく平気でいられるね。」

パートナー:「私は自分のこと、ラクダがサボテンと思ってる。」

 二人はダンスの練習を続ける。汗でぐっしょりのTシャツが、ずっしりと重く感じる。

リーダー:「2リットルのペットボトルを2本背負って踊っているようだ。」

パートナー:「ふらふらしてきたわ。」

リーダー:「やばい。脱水症状かも!」

パートナー:「大丈夫、ここは病院よ。内線一本で、真下にある救急外来から、ストレッチャーがとんでくるわ。」
 
 もしや、熱中症寸前? 真夜中に響きわたる救急車のサイレン、そしてカセットデッキから流れているダンスの練習曲が、まるで二重奏のように聞こえてきた。意識もうろうとする中、サウナのような病院の講堂で踊り続ける二人であった。


注)ストレッチャー:動けない患者を寝かせたまま搬送する道具



著者名 眼科 池田成子