社交ダンス物語 62 「男はつらいよ ダンス競技会」

コラム

 ダンスの競技会において、選手達の控え室から聞こえてくるといえば、リーダーへのパートナーの罵声。これは、競技ダンスの経験がおありでない方にはイメージがわかないと思われるので、ここでは控え室での光景を紹介しよう。通常は会場内の一角に、大勢のカップルが所狭しとばかりにシートを並べて敷き、そこで燕尾服やドレスを吊るし、メイクや着替えをして、飲食をし、休んだり仮眠をとったりしている。まさに、被災者の方々の避難所のイメージだ。段ボール等による仕切りはないので、プライバシーなど全くなし。よそのカップルの声は、まる聞こえ状態。

 先日千葉で開催された、競技会での出来事。一次予選を踊り終えて控え室へ戻り、結果が出るのを待っていると、お隣さんから威勢の良い第一声が…。
「ルンバは男が女を見つめて踊るものよ! あなたは女を見ていない!」
パートナーの罵声に、リーダーは口を閉ざす。
さらに続々と、パートナー達の声が聞こえてきた。
「音に全然合っていない! あんた早すぎ! いつも偉そうに私に文句を言う資格はないわよ!」
「男が、体が重たいのはダメ! それじゃ、女を動かせない!」
「もっとお金を使って、プロのレッスンを受けなさい!」
「ジャッジは男を見ているんだよ。ダメなのを女のせいにするな!」
そこでリーダーさんが、パートナーに口答えすると…
「勝ってから、モノを言え!」
パートナーからの反撃に、リーダーさん完全にノックアウト。(苦笑)

 ちなみにその試合で、我がリーダー君が愛し(?)のパートナーから言われたセリフとは…

「あなたって、本番に弱い男ね。」

よその、どのパートナーの罵声よりも、キョーレツで致命的?(苦笑)

 さて、男女が組んで『美』と『技』を競い合う競技ダンスにおいて、三歩下がって男をたてる大和撫子というべきパートナーは、存在するのだろうか? 表向きは淑やかでも、勝ち気で負けん気の女性の方が圧倒的に多いのでは?(笑)。仏教には「柔和耐辱」という教えがあるが、こんな時こそ世のリーダー達はパートナーと張り合って口論などせず、仏さまの教えに従い「僕が悪かったのです」と謝り、ただじっと耐え忍ぶ方が得策のようにも思える(苦笑)。ボールルームダンス(社交ダンス)は、英国発祥の紳士淑女のスポーツであるが、『忍耐』というのは『紳士』たる条件の、ひとつなのだろうか…。

「ああ、今日も2時間半は、車の中で愚痴を聞かされるよ。」
その日も控え室では、予選で敗退しシートを畳んで帰り支度をしているリーダーさんのつぶやきが、聞こえてくるのであった。(涙、涙…笑)

☆自分のリーダーは、誰よりも強く美しくあって欲しい。それが、パートナーの願いです。世のリーダーさん、あなたのパートナーからガミガミ言われても、おおめに見てあげて下さいね。


著者名 眼科 池田成子