かつて医学部の前教授から、「アップ オア ドロップアウト」というお言葉を戴いたことがある。(ダンス物語・第22話) 勝負の世界なら何でもそうだろうが、競技ダンスの世界においてもそれを認めざるを得ない。幸運にも関東甲信越ブロックのシニアラテンA級に昇級できたが、クラスを維持するためには予選で勝ち上がらなければならない。技も身長もなく、髪の毛も少ない我々がA級競技会で「美と技」を競い合い、予選を突破するということは、喩えると、割り箸の片方を落として残る一本を二つに割ったが、その片方も落として残りを二分割し、それで豆を拾い上げる程に困難な状況と言えよう…(涙)
5月8日に栃木で開催されるA級競技会のエントリー表を見て、リーダーは悲鳴を上げていた。対戦相手のリストを見れば、遥かに格上。出場組数20組の中で、我々が勝てそうなカップルは、1組だにいない。そんな凄い人達と同じヒートで踊ったら、逆にこちらが目立ってしまい、「引っ込め!」と、フロアサイドからモノが飛んで来るのではないかと、泣きたくなる。(涙)
でも、こうなったらプラス思考だ。そんな凄い選手達と同じ、しかもワン・フロアで踊らせてもらえるなんて、至極光栄で自分達はスゴイ!と、二人は発想の転換をする。(笑)
試合前日、覆面パトカーを意識しつつ高速道路を飛ばして、会場のある栃木県の藤岡市へと向かう。
「成子さん、今日は僕がごちそうするよ」
リーダーに連れられて行き着いた先は、『すき家』。280円の牛丼に、生たまごが付いて出て来た。これぞ貧者の一灯(?) 接待でいただくフルコース料理よりも、競技会に出まくり『遠征貧乏』となったリーダーから施される食事は有り難く、掌が合わさる。(笑)
競技会当日、憧れのプロの先生から譲り受けたリオのカーニバルのような『勝負ドレス』で試合に臨んだ。競技用ドレスはとても高価であるのだが、我々はラッキーといえよう。リーダー・パートナー共に、寸法のお直しなしで新潟県ラテンチャンピオンの先生方のペアのドレスがジャスト・フィットする。それで、毎回喜んでお下がりを戴いている。
その日は同会場で、プロの選手権も開催された。さすが、プロは違う! その美しさと迫力に、息を飲んだ。彼・彼女らにとって、『美しい』ということは必要最低条件なのか? その見事な体と技を磨くには、ハードでストイックな生活が必要であろう。我々アマチュアと違い、彼らはこれひとつ(ダンス)で食べている。プロの厳しさというものを、ひしひしと感じると同時に、パートナーの脳裏には明日自分が執刀する予定の患者さまのお顔がよぎった。
そして、いよいよ自分達の出番が来た。選手達が一斉にスタンバイし、ラインに並ぶ。
「神風特攻隊だ!」
覚悟する二人。(爆笑)
片道の燃料で、無我夢中でサンバとルンバを踊る・踊る・踊るっ!
後は、ホワイトボードに貼り出される結果を待つだけ。5人のジャッジにより採点され、チェック数が6以上なら、準決勝に進出できる。我々の場合、ノーチェック(チェック数ゼロ)間違いなし?
「せめて、ワンチェックは、もぎ取りたい」
リーダーは呟く。
結果が貼り出された。肝心の我々のチェック数は…?
「ノー!!!」
リーダーが、頭を抱え込んでいる。予想通り、やはりノーチェックかと思いきや、何と5チェックも入っていた。つまり、あとワンチェック足りず、予選突破とならず。(涙)
夕刻すぎに栃木を出発。ノンアルコールビールで、車中で労をねぎらう。
『挑戦こそが、チャンスを作る!』
夢を本気で信じよう。次に開催される新潟大会に向けて、車を走らせたのであった。(笑)
著者名 眼科 池田成子