社交ダンス物語 53 「夢のダンスフロア」

コラム

 人生の一大イベント、40年間生きてきた自分達へのお祝いに、弟と妹を誘って憧れの豪華客船『飛鳥Ⅱ』の2泊3日のクルーズに参加することにした。

 さて、飛鳥クルーズに参加したことがある人に、『船の中では、何が一番楽しかった?』と聞いたところ、『どこに何があるのか、船内を探索することが楽しかった』という答えが返ってきた。船中のクラブには、広いダンスホールもあるという。

「お金持ちのロマンスグレーに、踊ってもらえるかも…」
素敵な出会いに夢を膨らませ、うっとりしている独身の姉上。
「億万長者のふりをしたロマンスグレー、髪は脱着式で大ラッパ吹き、嘘は女だけの専売特許じゃないよ。泥棒さんもいるかもよ。」
弟から、辛口コメントが…(苦笑)。

 冗談はさておき、飛鳥Ⅱの良さを書き尽くそうとしたら、原稿用紙で数百枚に及びそうなので、ここではダンスホールについて紹介しよう。ホールは『ダンス教室』が日中1、2回開かれており、誰でも自由に参加できる。午後6時から午前12時までは、ダンスタイム。生バンドの演奏のもとで、粋なダンスタイムが楽しめる。女性同士で参加しても大丈夫、プロのダンス教師が数人控えていて、無料でお客さんのお相手をしてくれる。

 今回のクルーズで、私にとっての最大の楽しみは、何と言っても船上でのダンス(笑)。キャビンにおいて競技会さながら、ケバいメイクに付けまつ毛を付けて、スタンバイしている姉上(笑)。
「オバサンと思われたらいけないから、外すわ」
大きな石のついた、祖母の指輪を外す。
「充分にオバサンだよ」
自覚がないのは本人だけと言って、呆れている弟と妹。
 そしていざ、飛鳥のダンスホールへ。流れるようなデザインのフロアを取り囲むように、テーブル席がもうけられている。クラブのウエイター達は外国人国籍だが、簡単な日本語は通じる。ダンスホールでは、女性客の中では自分が一番若いようであった。おもむろにテーブル席に座り、殿方からお声がかかるのを待つ。

 待つこと30分。おかしい。お声がかからないのだ。他のご婦人方は、あちらこちらから誘われて楽しそうに踊っている。何故自分だけ、誘われないのだろう…。
「ちょっとその辺、散歩してきてくれない?」
隣に座っていた弟に席を外してもらうと、たちまちダンスのお誘いあり!(ニッコリ)。

 船内の至る所では、ムーディーなミュージックが流れている。生演奏に合わせて、コンパクトホールドでサロンの一角で踊っている熟年のご夫婦の姿もあり。ダンスホールまで行かずとも、音楽と男女があれば、そこにはいつでもステップが生まれている。飛鳥Ⅱ、そこは『船』全体が、まるで洋上のダンスフロアのようであった。



著者名 眼科 池田成子