社交ダンス物語 50 「笑顔の相乗効果」

コラム

 競技ダンス、そして社交ダンスのデモンストレーション(デモ)は、人様に見られてナンボと言える。笑顔はとても重要なポイントの一つだ。かつて私は病院で、一般市民の方々を対象に眼の病気についての講演をさせていただいたが、講演の後に皆様の前で、ワルツを披露させていただいた。ダンスを見るのが初めてという方の前ですら緊張してしまい、笑顔で一曲踊り通すのは至難の業だった。一方競技ダンスは、デモとは異なり数組が同時に踊り出して美と技を競い合うのだが、こちらも笑顔は大切。技が同程度なら、笑顔も採点の対照に成りうるからだ。

 競技ダンス歴3年半の筆者、コーチャーから『笑顔』を指摘されても、熱烈した闘いが繰り広げられるフロアの上で、笑顔を作るのは甚だ困難だ。そもそもアマチュアダンス競技会では、闘っている選手達の殆どが顔を引きつらせ、コワイ顔をしながら踊っている。「勝ち上がりたい」と思う心が、顔に現れてしまうのだ。その点、プロはスマートだ。プロの試合を観戦すると、アマチュアとは異なり、熾烈な闘いの場でも満面に笑みを浮かべ、観客にアピールしながら踊っている。さすがプロ。感情をコントロールし、自らをより美しく魅せることに卓越している。これが、プロとアマの違いだろう。

 さて、筆者が勤めさせていただいている糸魚川総合病院の外来接遇目標に、『いつも笑顔』が掲げられている。笑顔がもたらす効果の8項目のうち、その1つに、「笑顔はコンプレックスを取り除き、足りないところを補う」というのがある。踊っている時には困難でも、患者さまを診察させていただく時は、常に私は笑顔を心がけている。疲れがピークに達しても、空腹のあまり目眩がしても、切羽詰まってトイレに行きたくなっても、診療中はスマイル、スマイル。(笑)

患者さま:「先生、大勢の患者さんを診察されて、大変ですね。」
池田医師:「はい。知力のない分、体力でカバーしております。」(笑顔)
患者さま:「……。」(笑顔)


著者名 眼科 池田成子