10月といえば、秋期関東甲信越競技ダンス大会のシーズンまっただ中だ。技も身長もなく、髪の毛も少ない中年の我々だが、昇級を夢みて各地で開催される競技会には、くまなく出場している(笑)。これを『ダンス遠征』と呼んでいる(ダンス物語・第15話)。今回出場予定の茨城県大会の会場は、県庁所在地である水戸近郊にある笠間市だ。同じ関東甲信越とはいえ、新潟からは最も遠い。よって、新潟からの出場選手は数組しかみられない。
「湯巡りパスポートみたいに、出場したらスタンプがもらえたらいいのにね。」コーチャーからそう言われて、我々は送り出される(苦笑)。
水戸といえば、こんなエピソードがある。筆者が子供の頃、水戸へ嫁いだという祖母のいとこから、時折納豆が送られていた。
「水戸の○○さん、また納豆を送ってくれたわ」
祖母は、水戸、水戸と、声高らかに自慢している。
そこで母が、祖母に訊ねた。
「お義母さん、水戸はどこにあるのですか?」
「水戸は… 」
弁舌をふるっていた祖母は、言葉を詰まらせた。次にどんな返答が来るのだろうかと、家族達は息をのんで、祖母の顔を覗き込む。すると…
「水戸は、水戸じゃっ!」(爆笑)
さて、話をダンス遠征に戻そう。水戸は関東地方の北東部、茨城県の中部に位置しており、糸魚川からはその距離約430キロある。試合前日、朝の回診を終えると、手製のタラコおにぎりを持参のもと、糸魚川インターから目的地に向けて出発した。
道中は縁起担ぎで、小布施のサービスリアで名物『栗ソフト』を食べた。目的地には、夕刻に到着。さらに縁起を担いで、夕食は遠征地の名物を制覇した。茨城名産といえば、納豆と豚。あつあつの水戸納豆の天婦羅、そしてメロンがふんだんに入っている茨城産ローズポークのソテーは、ジューシーで絶品。
「成子さん、今日は僕がごちそうするよ。」
自称『ビンボー』のリーダー君が、けなげにもそう言っている。試合前日の夕食代を、リーダーが全額出してくれた時は、なぜか競技会では良い成績を出してきたというジンクスがある。リーダーがトイレで席を外している時に、店員さんがテーブル席へお勘定を持ってきた。彼は先日、ダンスのレッスンの帰りに駐車場の精算機の所で車をぶつけて、その修理代で出費がかさんだはず。リーダーのお財布を思いやり、パートナーは彼の分までお勘定を支払う。
さて、試合の結果は…。スタンダードは1次予選落ち、ラテンアメリカンは2次予選敗退。はるばる水戸まで来たというのに、散々たる結果であった。仏心が、裏目に出たのか? こんなのだったら、昨夜の食事代は全額リーダーに支払わせるべきだったと、後悔するも遅し(涙)。
帰りのサービスエリアで、茨城限定納豆風味の『ばかうけ』をゲット。水戸黄門さまが口を大きく開けて笑っているパッケージのイラストが、とても可愛い。水戸黄門と言えば研修医の頃、大学病院の病棟の新年会でエグい芸をさせられたのを思い出す。なぜか私は、悪役に抜擢。池田演じる越後のちりめん問屋が、生娘を手籠めにしようとしたところ、ご隠居さまから成敗されるというシナリオだ(涙…笑)。
道中リーダー君は、『眠眠打破』や『目覚まし太郎』などの眠気覚ましドリンクのお世話になり、パートナーは助手席で爆睡。リーダーの運転する車が、眠気防止のために設置された舗装の溝きり段差にガタガタと乗り上げる度に、その振動でふと意識が返る。その日のうちに、糸魚川へ無事帰還。山あり谷ありの、水戸遠征であった。
著者名 眼科 池田成子