ある日のこと、お願いがあると言われ、リーダーから男性用の五本指の軍足を手渡された。軍足の小指の長さを、半分に詰めて欲しいという。普通の靴下では足の指が固定されてしまうが、軍足の場合は指が自在に広がるため、ダンスをする際に床をしっかり捉えることができるのだそうだ。彼の足の指が標準サイズより短いのだろうか、市販の軍足では指の部分が余ってしまい、靴の中でぶかぶかするので、指の長さにフィットするようパートナーにお裁縫を頼んできたという訳だ。
その翌日、小指を詰めた五組の軍足をリーダーに渡した。出来上がった軍足をはいて、リーダー君は大喜びをしている。そこでパートナーは、したり顔でリーダーに問いかけた。
「お釈迦さまの説法によると、世の中には7通りの妻がいるんですって。殺人者のような妻、盗人のような妻、主人のような妻、母のような妻、妹のような妻、友人のような妻、そして、献身的な妻。妻をダンスのパートナーに置き換えたら、あなたのパートナーはどのタイプの女性かしら?」
パートナーの問いかけに、突如リーダーは貝のように口を閉ざす。
その日の晩も、病院の講堂でいつものように、ダンスの練習が行われた。
「そんなリードじゃ、踊れない!」「先生とは違う!」「アイ・コンタクトがない!」「また下を向いた!」「そんなビンボーくさい踊り、やめてちょうだい!」……。
パートナーの罵声を、機関銃の連続発射のように浴びながら、次の競技会に向けて練習に取り組むリーダーであった。(涙、涙…笑)
★下手なくせに、文句ばかり言っているパートナーで、ごめんなさいね。でも今どき夫婦他人を問わず、女性から靴下を繕ってもらえる男性は、どの位いるのかしら…?
著者名 眼科 池田成子