社交ダンス物語 46 「下っ端の美学?」

コラム

下っ端の美学?


 社交ダンス界も、高齢化している。筆者の所属するダンススクールでは、アマチュア競技選手達により『選手会』が結成されているが、40代のリーダーと私は、メンバーの中では最も若く踊歴も浅い。つまり、下っ端だ。選手会では年に2回、一般のお客様をもてなすダンスパーティーを開催している(ダンス物語・第13話)。競技選手達はホストとして、会場では赤いリボンを付け、会費を頂戴して一般のお客様のお相手をさせていただく。パーティーの収益は、選手達の練習場の使用料等にあてさせていただいている。

 さて、下っ端といえば、1年目の研修医だった頃を思い出す。大学の眼科の医局は、研究棟の8階にある。病棟まで行くには、ひとまず下まで降りて長い渡り廊下を通り、別棟の5階まで昇らなければならない。エレベーターは遅いし、医局員全員は乗りきれない。朝のミーティングが終わると、下っ端達(研修医)は「よーい、どん!」とばかりに、8階から下まで一気に階段を駆け降りる(笑)。教授回診の時は,下っ端は道具運びだ。教授を先頭とする白衣の軍団に遅れぬよう、病室から病室へと飛脚のごとく器械を持って走る。そう、下っ端は、体力が必要だったのだ(笑)。今は昔、筆者が研修医であった20年前は、教授に絶対、先輩に従順、先輩より遅く来てはいけない、先輩より先に帰ってもいけない…♪(爆笑)。

 何事も“初心忘れるべからず”だ。選手会のダンスパーティーの当日は、逸早く会場へと向かった。壁に沿ってぐるりと椅子を並べ終え、ひと汗かいた頃に先輩達はやってきた。そして、続々とお客様が現れる。リボンとしては未熟な私、お客様の仕掛ける『技』に反応しきれず、客の膝を蹴り、足を踏み付けながら踊る(苦笑)。受付は女性の役目、交代の時間がきたのでほっとして会場を出る。受付には、ぎっくり腰になったという先輩と、還暦を過ぎた大ベテランの先輩が、椅子に腰掛けていた。

「しっかり稼いできたの?」
「はい、稼いできました。時間なので、交代させていただきます」
「いいのよ。あなた踊っていらっしゃい」
「…はい」

 ちなみに普段の練習では、汗ぐっしょりのTシャツで踊っているリーダー君だが、パーティーでは香水を付け、30分おきに上着を着替えている。彼は着替える時間を除いては、休むことなくお客様にご奉仕している。
「よく働いてくれているねぇ」
先輩達は、目を細めて彼を褒めている。

 2時間半にわたるパーティーは、無事終了した。お客様をお見送りした後に、コーチャーを中央に選手会メンバー一同で、記念撮影が行われた。それから後かたづけに入ったのだが、足が棒(涙)。一方、自分よりひとまわり以上離れているグランドシニア達は、足取り軽やかに椅子を積み上げ、モップを持って広いフロアを駆けている。前段で、下っ端は体力が必要と力説したが、ここ一番という時には役に立たなかったのであった。

 人間100年、うつつとなりにけり。脂の乗った40代、さらに心身を鍛えませう(笑)。

 ご褒美として先輩から、缶ビールを1本ずつ戴きました。ありがとうございました!



著者名 眼科 池田成子