社交ダンス物語 43 「インターナショナルを目指して」

コラム

 インターナショナルなドクターを目指して、当院では毎週火曜と木曜の晩に、外国人教師を呼んでドクターを対象とした英会話教室が開かれている。「腹痛がありますか?( Do you have any pain in your stomach? )」と、問診の際に3歳児に聞いても、返事は返ってくるだろうか。「ぽんぽん痛くない?( Does your tummy hurt? )」と、聞くのが妥当。ということで、英会話教室では幼児用語をはじめ、文法や表現法、身体のあらゆる部分に関する呼び名も勉強する。例えば、日本語でお尻といえば「しり」か「ケツ」。せいぜい二語だ。他方、英語でお尻を意味する言葉としては、「buttocks」「butt」「rump」「behind」「rear」「bottom」「fanny」「ass」など、実にさまざまな呼び方がある。

 さて、この英会話教室において、ドロップアウト寸前のドクターが若干一名いる。何を隠そう、筆者のこと。苦手なものに、『パソコン』と『英会話』と『朝ごはん』と述べたことがあるが(ダンス物語・第37話)、物心ついてから、外国人がこちらに向かって近づいてくると、反射的に踵を返して逃げ出してしまうという習性がある(苦笑)。一方、白子とイカの塩辛が好物というアメリカ人の先生は、ナイスガイ。彼はレッスンの合間に、ジョークを飛ばしているようだ。ドクター達は、みんな笑っている。一方、筆者だけ固まったまま。英会話教室では、時折抜き打ちで、文法やヒアリングのテストがある。筆者は、ちんぷんかんぷん。皆さんは、テストを受けることも『社交』同然? 答え合わせの時はにこやかで、正解が当たり前のよう。
「へえ… お医者さんって、ちがうなあ…。」
そう頷きながら、職場の仲間をただただ尊敬(笑)。

 さて、ある日のこと。英会話教室が終わると、私は病院の講堂へと直行した。いつものように、ダンスの練習をするためだ。リーダー君は先に着いていて、シャドーを踏んでいた。
「I’m sorry, I’m late.(遅れてごめんね)」
講堂に入るや否や、リーダーに向かってそう言った。すると、私の意図することを察してか、
「Shall we dance? (踊りましょう)」
ふざけて彼も英語で返す。そう、講堂でダンスの練習をしている僅かな時間ぐらいは、超苦手な英語を話してみようと試みたのだ。しかし我々にとって、中学校の教科書レベルの英会話もままならず(苦笑)。それでも何とか身振り手振りで、カタコトのコミュニケーションを試みる。それから二人は、ホールドを組んでワルツを踊り始めた。

My God! (おお神よ!)

意思疎通困難! 語学力の乏しい二人にとって、相手のリードや不満なところを、英語で伝えることができない(涙)。しまいには、もどかしくなり、
「No! No! No! (違うでしょ!)」
踊るたびに、互いに連発(爆笑)。

 日本インターナショナルダンス選手権大会をはじめ、国内の競技会なら(節操もなく?)、どこにでも出没しうるといわれている40代チャレンジャーの私とリーダー君。ダンス同様に超苦手な英会話もマスターして、いつの日か夢の海外進出なるか?!(笑)


The middle-aged, be ambitious! ( 中年よ、大志を抱け!)



著者名 眼科 池田成子